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乱世の確率事象改変
気付く不和の芽、気付かぬ不調
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。でも……

 願いは一つ胸の中。ジクリと痛む後悔を留めて、彼女は小さく息を吐いた。甘い甘い、蕩けそうな恋の吐息を。

――私の目の前に来るというのなら……絶対に逃がしませんよ、秋斗さん。

 紅の瞳の中には、昏い色が揺れていた。

――例え、何を犠牲にしてでも。





 †




 朱里の行動は早かった。
 益州からの連絡が届いて直ぐに、復興と強化に必要な事を書簡として残して呉を発った。白蓮に絶対の忠を誓う白馬義従と……孫呉の弓腰姫を引き連れて。

 蓮華を筆頭に、穏、亞莎、明命、思春が反対していたが、雪蓮と祭と冥琳の年長組は小蓮の小さな背を推した。
 当然のことながら反対していた者達は理由を尋ねたが、三人が三人とも答えは教えなかった。
 しまいに雪蓮が王の決断として命じた為、彼女達もしぶしぶといった様子で小蓮を見送ったのだが。

 時は夜。
 件の三人は机を囲む。ようやっと落ち着いてきた前の戦での戦後処理の疲れを癒す為、そして小蓮の旅の無事を祈る為に。
 手に持った杯に注がれた酒は少しばかり値が高い。嬉しそうに喉に流す雪蓮と祭は、普段よりもペースを落としてその酒を楽しんでいた。

「過保護じゃのう、権殿は」
「あの子の良い所でもあるんだけど……やっぱり心配し過ぎよねぇ」
「それでいて袁家との戦のことが頭にあるから昔のようにも接せない、か」

 彼女達の口に上がるは孫呉の姫君。小蓮と蓮華の確執は、目に見えなくともやはり深い。小蓮が少し変わったとは言っても、蓮華自身が呑み込めていない部分があり、それが関係改善に対する悪循環を生み出していた。
 前よりはマシになった。それでも、この三人にとっては違うと感じるらしい。
 グビリと一息。おかわりを継ぎ足しながら祭が笑う。

「くくっ、儂はまあ、単純に経験を積ませたいから賛同したんじゃがな」
「同感。白蓮のこと好いてるみたいだし、部隊指揮とか政治のあれこれを沢山学んで来てくれることを願うわ」
「雪蓮、この三人だけなら話してもいいだろう。確かに経験を積んで頂くのも狙いの一つだが……私と雪蓮の本当の狙いは別にある」
「本当の狙い?」

 冥琳の答えに眉が寄る。苦笑を零して酒を煽った雪蓮を見て、蓮華には言い辛いことだと祭は直ぐに分かった。

「祭……シャオにはね、劉備軍に絆を作って貰うのよ」
「ほう、同盟は保留にしておいてか?」
「その為の保留、その為の時間稼ぎ……ということ」

 謎を呼ぶ言い草に今度は首を傾げた。

「訳がわからんぞ」
「簡単よ。曹操と敵対確定の劉備に対して胸襟を開くってこと。孫呉の後継を連れ添わせるっていうのは、あっちにとったら人質を取ってるのと同じことだもん」
「な……」

 絶句。

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