気付く不和の芽、気付かぬ不調
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人に選ばせるあの人”が、この弱点を突かないわけがない。
それは確信。
どう攻め崩すかと考え抜いて思い付いた……兵法にもあるように、敵を知り、己を知らば百戦危うからずとそのまま思考して気付いた同盟国の致命的な問題。
驚異的な勘の的中率を誇る雪蓮が戦場で死の寸前まで陥った。そのことからも分かるように、常識はずれの勘ばかりに頼ってはならないのだ。
あの時に雪蓮を失っていれば劉備軍を頼らざるを得なかったであろう孫呉は、確実にその力を大きく削がれていたに違いない。
次は如何か。その次は、そのまた次はどうなる?
今回は白蓮の嗅覚があったから助かった。朱里は分かっていて放置したが……それは捨て置こう。
冥琳の頭脳があってさえ危うかったというのに、その頭脳を欠いた状態で覇王の軍と相対するなど無謀に過ぎる。
その事に冥琳は危機感を持ってはいても、圧倒的に時間や経験が足りないのだ。
――曹操軍の怖ろしい頭脳集団に対抗しきれるかどうか……周瑜さんと私の関係が最重要になってくる。
だからこそ、朱里達がその弱点を補わなければならない。
悪龍の残した虎への鎖は深く食い込んでいる。全ては伏したる龍の手に渡された。
少し悪くなった空気を晴らそうと碁盤を片付け始めた二人を見つめながら、朱里は一つだけ落ちていた碁石を手に取った。
黒だった。盤外に落ちていた一つ。それが何処か彼のように思えて、彼女は優しく優しく包み込む。
――嗚呼……
トクンと跳ねる鼓動と、背筋を駆け巡るいいようのない不安。
曹操軍だけでも厄介であるのに、彼女の読みを容易く飛び越える黒が敵。それが愛おしく、恐ろしい。
――何か……絶対に何かしてくる。私がこうしてる間に、彼は全てを捻じ曲げるような手を打ってくる。
漠然とした予感が頭に浮かび、また思考に深く潜った。
焦りはない。ただ自らの欲求の赴くままに深く、深くと。
そんな彼女の願いを天が聞いたかのように、軍師達の場へと一人の男が駆け込んできた。
疑問を浮かべる亞莎と、鋭く目を細めた冥琳と……歓喜と不安を混ぜ込んだ朱里。
三人の前で膝を折った男が汗も拭わず口にした言葉は、彼女達に更なる思考を積ませる急な報せであった。
「……益州からの急使です。諸葛孔明、公孫伯珪の両名は直ちに益州へと戻られたし。荀攸と黒麒麟の来訪によりて益州に混乱の予兆あり……と。五千の護衛兵を連れて使者として訪れているそうですが、詳細はこちらに……」
手紙を受け取ることなくポトリと地面に落ちた碁石。震える身体と上気する頬。腰に据えてあった白羽扇に手を当てた。
幼子の見た目であるのに妖艶過ぎる顔で……朱里は笑った。
――あなたはやっぱりいつも通りに私の策を越えて行く
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