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真田十勇士
巻ノ二十五 小田原城その六

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「それだけです」
「銭に興味はありませぬか」
「ないと言えば嘘に嘘になりますが」
「それでもですな」
「必要なだけあれば。ただ」
「ただ?」
「いざとなれば地獄でも使います」
 その銭をというのだ。
「そうします」
「地獄の沙汰も、ですな」
「銭次第なので」
 そう言われているがだ、幸村もここでこう言ったのだ。
「地獄でも使わねばならぬ時はです」
「その銭を使いますか」
「そう考えています」
「左様でありますか、いや」
「いや?」
「銭に執着はしないがその強さをわかっておられますな」
 彼が幸村についてわかったことをだ、風魔はそのまま彼に言った。
「お見事です」
「見事ですか」
「銭、宝もそうですが」
 そうした富を作るものはというのだ。
「それの強さ、魅力に魅せられてです」
「使うよりもですな」
「溺れる者が多いので」
「そしてそれが為に」
「身を滅ぼすこともありますが」
「拙者は、ですか」
「それがありませぬ、だからです」
 それ故にというのだ。
「見事です」
「そう言って頂けますか」
「はい、そしてです」
 風魔はさらに言った。
「貴殿は他の欲もありませぬな」
「富以外のことも」
「左様ですな」
「はい、別に禄も身分もです」
「特にですな」
「今で充分です」
 今の状況で、というのだ。
「これ以上はいりませぬ」
「しかし望みはある」
「そう言われますか」
「義、ですな」
 幸村の顔を横から見つつだ、風魔は言った。
「望みは」
「はい、戦国の世ですが」
 それでもというのだ。
「しかしです」
「その乱世においても」
「義は必要です」
「そう思われるからこそ」
「拙者義を大事にし」
「そしてですな」
「義に生き義にです」
「死すと」
「その心意気でいきたいです」
 何としてもという口調での言葉だった。幸村のその言葉には一点の淀みもなく確かなものがそこにはあった。
「何があろうとも」
「天下を望まず」
「天下人ですか」
「その思いはありませぬか」
「誰もが一度は抱く思いといいますが」
 しかしとだ、幸村は微笑み風魔に答えた。
「拙者はその思いは一度もです」
「抱かれたことはないですか」
「左様です」
 そうだとだ、風魔に答えたのだった。
「生まれてこのかた」
「天下よりもですか」
「家を守りそのうえで」
「義を貫いて」
「そうです、あくまでです」
 何としてもという言葉だった。
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