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ドラゴンクエストX〜イレギュラーな冒険譚〜
第五十三話 無力
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 それだけでアベルの体はメタルキングの剣ごと吹き飛ばされた。

「さて、まさか予想外でしたよ、そこの女がかの天空の勇者の子孫だったとは」

 アベルの傷をベホイミで回復しながら、私はゲマから意識を外さないようにしていた。
 ゲマがいつ何を仕掛けてきても対応できるようにするためだ。

「ここで殺してもいいのですが……どうせ私が動かなくてはならないのなら『このやり方』の方が良いでしょう」

 ゲマが手を翳すとアベルとビアンカの足元から黒い光が放たれた。
 光は2人の体に吸い込まれていきながら、段々輝きを増していって、ついには目も開けられないくらい強くなってーー。

 光が収まったのを感じて恐る恐る目を開くと、そこには……そこには石になった2人の姿があった。

「アベル!ビアンカ!」

 慌てて私は変わり果てた2人に駆け寄って、体を叩いて。呼びかけた。
 どうすればいいのかわからない、こんな時どんな魔法を使えばいいのかわからない。
 そんな私に追い打ちをかけるように、ゲマの無慈悲な、それでいて愉しそうな声が聞こえてきた。

「ミレイ、と言いましたね。あなたのその力は我々にとって邪魔になる。だから、芽は早めに摘んでしまわないと」

 ゲマがまた手を翳すと、私の足元にも黒い光が現れた。

「私も、石化させるの?」

 できるだけ、ゲマに不安を感じ取られないように様に言ったけど、ゲマは私の不安なんか簡単に見透かしたみたいで、嫌らしく笑っていた。

「石化させてもいいのですが……何も石化ばかりが手段ではありませんよ」
 
 どういう意味かをゲマに聞こうとしたけど、足元の黒い光が強くなった。
 その瞬間、凄まじい不快感と脱力感が私を襲った。
 とにかく気持ち悪い、目の前の景色が歪んで、体が浮くような変な感覚がする。
 それに、指の一本にも力が入らない。体がバランスを失って床に倒れたけど、立ち上がれない。

「安心してください。もうそろそろ終わりますよ」

 異常なまでの不快感と脱力感の中でゲマの声だけが鮮明に響いた。
 そして、ゲマの言葉通り、急に不快感と脱力感はなくなった。

 でも、何か違和感を感じる。

 不気味な何かを感じながらも、体を起こしてゲマの方を見ると、ゲマの手にさっきまではなかったはずの黒い球体が握られていた。

「その黒い球体は何?」

 聞いたけど、ゲマはニヤニヤと笑っているだけだった。

「さて、もう様も済んだことですし、私はそろそろ帰りますよ」

 ゲマが両手を広げると、アベルとビアンカが浮かび上がる。
 2人を取り返すために、私はゲマに意識を集中させて、唱えた。

「メラゾーマ!」

 でも……メラゾーマは発動しなかった。
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