彼の齎す不可逆
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旧きも新しきも、思惑も野心も、仕える臣下達がどう思っていようと劉璋という男にとっては気にならない。
親の代に仕えていたモノも、劉備が連れてきたモノも、ただ国の益となるのなら良しとしていた。
自惚れはない。反逆が起こればきっと自分は歴史の小さな片隅に埋もれてしまうのではないかとさえ考えている程に、彼は自己評価が高くない。
彼にとって不幸な事は、自身の才を早々に理解してしまったことだった。
運が良かった。親族での後継者争いに勝てたのも、厳顔や黄忠、地方にて交流のあった忠臣達の声と力あってこそのモノ。
無駄に争いをしたくない、それが彼の心。ただし、劉備のように平和を望んでのことではなく、自身に掛かる火の粉や失われる利を考えて……つまるところ、めんどくさかったのだ。
浅くみることなかれ、王の利の損失とはつまるところ国の損害にも繋がり得る。
そういっためんどくさいという心は、ある意味で発展や進歩を生む餌にもなる。
劉備とは真逆の龍と自己を判断する劉璋は頭もそれほど悪くない。王の、国の利を理解し、その上で自分の存在を受け入れ、それでいいと望んだ。
だからこそ、そのものぐさな思考が王として確立されていた。
簡単に言えばこうだ。
『戦争が起きず、国が平和ならばそれでいいだろう』
桃香とは似て非なる。精々面倒事を起こしてくれるな、という考え方は、ある意味で民の意識を顕現していると言ってもいい。
器が広いのか狭いのかは分からないが、彼は確かに、桃香とは真逆でありながら民の側に立つ王であった。
そんな彼は、玉座の間にて人を待っていた。
謁見の日時指定の紙を持ってきた彼女――桃香を見つめながら、うんざりしたようにため息を吐き出す。
――俺の欲しいもんをこんなにしてくれやがって……どうしてくれようか。
輝きに溢れていた瞳も、弾けるような笑顔も、感情豊かな表情も、その全てが桃香には無い。
玉座の間で他の臣下と同じように立ち並ぶ彼女は、遠くで見つめる紫苑に心配そうな目を向けられながら、虚ろな瞳で何も見ていなかった。
彼女を支えるモノは今、誰も居ない。劉璋の元に私兵は連れて入れないが故。
さすがに桃香のこのような変化は許容できるわけがない。だから彼は、同席していたと聞く厳顔に報告を聞いた。
詳細を聞く内に見えてくる黒麒麟の全貌と思惑。
敵の思考や本質、その時の狙いが何であったのか、決して頭の悪くない彼としてはある程度読み取れる。
桃香の心を突き崩すことによる劉備軍の弱体化。加えて、益州を動乱の舞台として掻き乱すこと。
自分と同じく、劉備軍の弱点を見極めていたことにまず舌を巻いた。
劉璋には出来ないことだ。桃香の心を折ることは、どうしても劉璋には出
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