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乱世の確率事象改変
彼の齎す不可逆
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……恐怖だった。
 曹操軍が行った袁家虐殺は耳に新しい。当然、自分達が歯向かってそのような事態にならないなどという保証は無い。
 死ぬ可能性はあるのだ。生き残るには、覇王に逆らわないことが一番いい。
 つまりは、主と共に心中するか、主を説き伏せて益州の存続を狙うか、その二択。

「漢の忠臣である益州の龍、それとも虎を守護する反逆者……お前さん達は、どっちだ?」

 優しく甘く、彼は逃げ道を与える。恐怖が染み込んだ時期を見計らって、文官達の心に言い訳を与えた。

 皆はこう思う。
 服従を示すは漢に対して。覇王に対してではない。
 そも、我らが従っているのは漢王朝の血であるのだ。それならば、抵抗せずとも帝と主が居る限り、自分達の立ち位置は其処にある。
 目を覚まさせなければ。アレは詐欺師だ。劉備は、自らの理想の為に我らを戦乱に巻き込む詐欺師なのだ……と。

 黒の隣、詠が震える。
 眺める文官達の瞳に宿る昏い感情を覗いて、彼女は秋斗の本質に恐怖した。

――人心掌握が……段違い過ぎる。

 敵国の真っただ中で尚、衰えることの無い理の力。
 劉璋の論を否定するでなく、自分達が正義だと肯定するでなく……彼はいつも通りに現状を述べて判断を他者に委ねるだけ。
 選択肢を与えた上で、どちらが得かを選ばせる。主観の意見をそっと乗せることによって、聞いた人々の心に己の望む方向を付けて。
 亀裂か、不和の芽か、ナニカ一つでも切片があるだけで彼は自らの望んだ方向へと捻じ曲げる。それが詠には、恐ろしい。

 冷たくなれるモノでなければ王にはなれない。
 非情になれるモノでなければ上には立てない。
 それでも彼が行う人心操作は、人として恐ろしいと感じて当然のモノ。
 詠は彼のことを、王とは違うナニカだと思った。

 不信の種は撒かれた。芽吹かせる事が出来るかはこれからの仕事。
 彼女達の交渉は此処で終わっていい。まだ何度も機会があるのだから。

「……大層な言いようだな、黒麒麟」
「これは失礼。如何せん、私情を挟み礼を失してしまいました。前の主が捨てた大地のことを思うとどうしても、ね」

 息を吐くように嘘をつく。真実を知らないモノが信じ込むようにと。
 劉備軍に居た徐公明の名はそれほど大きく広がっている。辺境の大地、益州であっても。

「……礼を失した無礼な発言、相応の罰が必要だな?」
「それでは私からも……使者に対し礼を失した無礼な部下は罰さなくてもよいので?」
「なに……?」
「証人に聞けばよろしいかと。なんのことかは、分かってるはずだよな?」

 其処で視線を送るのは二人。
 桃香と桔梗。昼のことにしても、夜のことにしても、彼女達二人は止められなかったという負い目がある。
 終わってい
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