彼の齎す不可逆
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真名を軽く見ていると取られて部下からの信が下がるのは目に見えていた。
真名のあれこれはそれほど、重い。
「大罪人……大罪人か。平和を説く俺達が大罪人なら、乱世を広げようとしてるお前らはなんだ?」
「分かってない。ボク達が何かなんてどうでもいいこと。我らに従わぬのなら踏み潰すのみ、そして理解出来るまで殴りましょう。二度と反旗を翻せぬように、争いの芽が芽吹く前に」
「やっぱりガキだな。てめぇらの論舌は俺らのことを信じてないから無理矢理に言うことを聞かすってこったぞ?」
「あんた達の論舌はボク達のことを信じられないから抗うって言ってるようなモノでしょう?」
互いに引かない。平行線の水掛け論には答えなどでない。
言葉遣いも投げ捨てた。使者として許されないことであるが、臣下達が口を挟めるような空気ではなかった。
華琳と桃香の衝突にも似た詠と劉璋の“話し合い”では、分かり合うことなど出来るはずがない。
その様子を眺めている桃香は、黒の男がじっとこちらを見ていることに気付いてしまった。
ぶるりと震える。
なんら興味を示していない、道端のゴミでも見るような目が怖ろしかった。
ほら、お前の理想はこんなモノだと、言い聞かされているようで。
幾分、彼が小さく苦笑した。
桃香から目を切り、終わりの無い言論の場を終わらせる為に。
それを合図に詠は押し黙る。第一段階として、劉璋との敵対が明確に出来た。
詠の使者としての仕事は終わった。劉璋の答えは従わない、だ。許昌に戻って報告をすれば終わる他愛ない仕事。しかし……覇王が命じた仕事を熟しただけで満足するかと言われれば、否。
此処からは使者の領分を越える。いつも通りに、黒が世界をかき乱す。
「クク……御労しい」
さも悲しげに、さも寂しげに言の葉を並べる。流し目を向けられる劉璋は背筋に寒気が起こった。堪らず問いかける。
「何がだ?」
「龍の血申し分なく濃いお方が、何処の馬の骨とも思えぬ龍の血の極々薄いモノに縋らずに居られぬとは……御労しい、と言っているのです」
ゆるりと、彼は手を巻く。纏う空気とは合わない敬語を並べ立て、劉璋に下から不敵を向ける。
後に詠の頭をポンポンと叩いて、彼は優しく微笑んだ。
「些かこの子も熱が籠り過ぎた様子。争いを好まぬのは我らもあなた方も同じでしょう、いがみ合うこともありますまい」
ジトリと詠が睨むも彼はどこ吹く風。渦巻く黒瞳に僅かな恐怖を覚えて、詠は小さく舌打ちを一つ。
「……だが、曹操の文の内容はあまりに横暴だ。自らの手を汚さずに他の地域を滅ぼそうとしてるんだからよ」
「はは、あなたは思い違いをしてらっしゃる」
乾いた笑いと見下すような視線に、劉璋は苛立ちを覚えた。何かを
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