彼の齎す不可逆
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の協力を謳わせるよりも、覇王を打倒すると言わせた方が臣下達も納得できる。
不信感を持っていた彼らを纏め上げる為の論舌に、詠は少しばかり感嘆の念を感じた。
――状況を上手く利用したわね。中々、やる。
このままでは自分が益州安定の手助けをしたようなモノだ。
彼女達の思惑を為す為には拙い。劉備と劉璋の不仲を際立たせたい詠と秋斗にとっては。
ただし、この程度で終わるほど詠も甘くはない。
敵対を示されておめおめと帰るほど簡単な任務ではないのだ、この益州に使者として赴くという事柄は。
従わないのなら従わないでいい。
押し黙っている秋斗に意識を向けず、彼女は彼女の仕事を遣り切る為に口を開いた……悪辣に見える笑みを浮かべて。
「つまり、劉璋と劉備は皇帝陛下に弓引く大罪人で構わない、そういうことね?」
天たる帝の話に、臣下達が苦く眉を寄せた。
不本意だが、覇王が膝元に帝を於いている以上、敵対を示すとはそういうこと。
「お前らが陛下を傀儡にしてないってんなら、そうなるな」
表情を消した劉璋の瞳は冷たい。
しかしながらその言い方は拙い。掛かった、と詠は頬を吊り上げた。
「異なことを。傀儡になど出来ようはずがない。真名を捧げさせるという類を見ない厳罰は、陛下の尊厳を案じ人の身を外れてこそ命じることが叶う。
天よりの断罪無きことが何よりの証拠。黒麒麟と曹孟徳の二人は今も生きている。ご法度である真名の扱いに触れた二人は、天に認められたる陛下の忠臣に相違ない」
真名の信仰はこの世界で最も重き共通認識。其処に触れた二人の異才は人々の恐怖を齎した。天罰が下るだろうと思っていた者は決して少なくない。
モノは言いようである。
真名を穢したのなら罰がある。そう信じてやまない大陸の人々は、有り得ない厳罰を与えた二人が未だ無事に生きていることが信じられない。
だから、彼らは天の忠臣と言われてもいい。天がそれを許容したということは天の為であるということ。詠は事実無根の概念という武器を使って持論の強化を図った。
帝とは天、そうして積み上げられてきた価値観が、劉璋の逃げを封殺する。
どちらが大罪人であるのかと、人々の心に迷いが生まれる。そも、覇王はまだ侵略を開始していない。降りかかる火の粉を払い、悪を討ってきただけである。
孫呉を従えよという命令にしてもそう。大陸の平穏を違えるからと出た命令とも取れる。
覇王はまだ、覇王に非ず。覇王と呼ばれていようとも覇王では無く、人々の求める徳の王とも言えるのだ。
ち……と舌打ちをした劉璋の表情が歪んだ。
何をバカなことを、と言うことは出来るが、僅かばかりの部下は詠の言葉を信じてしまっている。ここで彼女の言葉を否定してしまえば、自分が
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