彼の齎す不可逆
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て声を大にしている以上、劉璋には詠の論は崩せない。華琳の命令には抗えない。
孫呉を従えるのは皇室の威厳を保つ為には必要なことで、繋がりがあった賢き龍に借りを返すことも出来る誘いであった。
だが……彼は小さく鼻で笑った。威圧を含んだ目線は、詠の身を僅かに引き締めさせる。
「生憎、無駄な争いは好まないんだ。最近客将として迎えた劉備に諭されてね。
皇室を蔑ろにしたことは確かに許せることじゃあないが、大陸に住まう以上は孫呉のバカ者共も等しく我ら龍が保護すべき弱き民だ。
牙を剥くなら従えて誰が主人か分からせてやろう。でも、あいつらは俺には牙を剥いていない。あのおっそろしい龍の敵討ちしても笑われる気がするし。高祖、劉邦の血を引く俺達は、お前らみたいな薄汚い覇を掲げるモノとは違って寛容ってこった。陛下だって戦は好まないはずだ。
戦で全てを解決しようとする野蛮人共め、誇り高き漢の血はお前達に穢されている。皇帝陛下を引き込み、好き放題に乱世を広げようとしてるお前らこそが悪だと気付け、曹操の使者」
一つは責任転嫁。もう一つは好まれる英雄の名を出しての論舌のずらし。
滑らかに回る舌はまだ止まらない。
「漢の臣であることを示すには、お前らみたいな奴等をこそ許してはならんだろう。
人々は生きている。命を奪うことはそれだけで罪。戦をしろというお前らには、民の声が聴こえないんだろう?
俺達が動けば愛しい民の命は儚く消える。言の葉で決着を付けること叶うならばその方がいいに決まっている。
言い聞かすことが出来ないから力に頼るってのじゃあ、ガキと変わらねぇ。そんなガキに世界を渡すわけにはいかねぇな」
従うことは無いと、劉璋は言い切る。漢の忠臣だからこそ、覇王の乱世を許さないと。
龍の地を引くモノだからこそ口に出していいその言葉は、臣下達の心に染み込んだ。
桃香は茫然と彼の言葉を耳に入れ、繋がれた視線の先で薄く笑う劉璋から目を逸らした。
――私がどれだけ言っても聞かなかったのに、こんな時だけそんなことを言うんだ。
心の底から思っていることでは無いと知っている。
真逆の龍はどちらかと言えば悪を信仰するモノだから。
桃香に諭された、と彼は言った。つまるところ、自分一人の責任とせず、無理やりに桃香を華琳との敵対に巻き込んだということ。
――さぁて、俺と一緒に地獄の果てまで来てもらおうか。
部下達の不和を知る劉璋は、この時をもって部下達に桃香を認めさせるつもりなのだ。
苦い顔をする文官達は、正論を紡がれて反発出来ない。
桃香は……華琳を倒すよりも共に生きたい。覇王とさえ手を繋ぎたい。
劉璋はその理想を突き崩す。だが、それならば劉璋の臣下達も受け入れられるのだ。妄言に等しい覇王と
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