彼の齎す不可逆
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行くと思ったら大間違いだぜ。
目に飛び込んできた黒と、イヌミミフードの少女の二人を厳しく見下して、龍の後継はめんどくさいというようなため息を吐き出し……不敵に笑う男の黒瞳を楽しげに嘲笑った。
†
「お初にお目に掛かる、劉璋殿。我が名は徐晃、徐公明。盟友たる曹孟徳の使いとして参った次第に」
「同じくお初に、劉璋殿。我が名は荀攸、荀公達。我が主、曹孟徳の使いとして参上致しました」
両の手を包んで礼を一つ。
膝を付くことなどせずに二人はゆるりと自己紹介を行った。
劉璋は肩肘を玉座に於いて尊大に見下ろしたまま、格下を扱う時と同じように言葉を流した。
「先の手紙で聞いている。要件すら伝えぬ無礼に目を瞑り謁見を許してやった。つまらん話をするのなら即座に帰って貰うぞ」
交易の類や戦争についてのあれこれではなく、傍若無人に使者を送るとしか書かれていない手紙を渡されれば、当然のこと当主としては怒らなければならない。
対面的な怒りを見せた劉璋ではあったが、纏う気はまさしく王のモノに相応しく、放たれる威圧に詠は僅かに肩を竦める。
――片田舎の弱小太守かと思ったら、存外……しっかりとした王なのね。
警戒を一段階引き上げる。舐めてかかるのは此処までだ、と。あくまで様子見、相手の力量を図ることは何より大事だ。こうして言葉を交わす以上、詠こそが目の前の王と相対せねばならないのだから。
包んでいた掌をそっと外し、詠は懐から一つの書簡を取り出す。
くるくると器用に解けば、ずらりと並んだ文字の列を読み上げて行った。
ただしその内容は、明らかに人を逆なでするモノばかりであった。
「拝啓、漢王朝の正統なる血を引く若き龍へ。
秋の近付きたる今日この頃、如何お過ごしか。南の大地にて作られた作物をそろそろ食べてみたいと思う。
冗談はさておき、本題を語るとしよう。
賢き龍の忠義は皇帝陛下の御前で示されたが、汝が忠は何処にあらんや。
彼の佞臣董卓の反乱は記憶に新しかろう、袁家による大陸支配の目論見はさらに覚えが良いであろう。
益州の内部事情は聞き及んでいる。しかして未だに顔の一つも見せに来ない其方に陛下の御心は憂うばかり。疑うことは恥だとご理解していても、臣下の裏切りに合い続けた陛下の心を慮れば、せめて健勝な姿を一目見せに来ることも筋であろう。
群雄割拠となりしこの大陸で、真に漢の忠臣たるを示しているモノは数少ない。
使者に問わせるは其方の忠の置き所なり。手ぶらで都に来るのも座りが悪かろうと思う故に提案する。
其方が漢の忠臣であると明言するのならば、賢き龍に牙を剥きし虎を従えよ。
彼の者らは皇室の存命よりも“家の安寧”を選択せし逆臣である。命は
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