彼の齎す不可逆
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来なかった。どれだけ考えても民に希望を与える日輪のような少女を折ることは出来なかった。
それさえ出来れば劉備軍の弱体は目に見えていたこと。自分はそうして彼女達を従えたいと考えていたのだから。
劉備軍は、劉玄徳の存在に依存し過ぎている。
頭が判断せずとも部下で勝手に動くことはするが、劉備が表に出なければ末端までは力が際立たない。
臣下達にしてもそうだ。特に関羽と張飛の二人、飛び抜けた武将である彼女達は、桃香の意思を剣に乗せてこそ力を発揮する。
戦場には必要ない非力な王とはいえ、深すぎる絆があるから何処にいようと、主が折れれば不安と迷いに支配され、本来の力を発揮できない。
頭がブレるというのは、戦場で戦うモノ達にとってそれほどまでに大きなこと。桃園の誓いと噂される強い絆を結んだ義姉妹であるならば、想像できないほどに大きいであろう。
本人次第とは言わない方がいい。そんなモノは甘えだというのも違う。
自分達が正しいと胸を張って言えるのは支柱の存在あってこそ。
何せ、彼女達がこれから敵対するモノは全て、自分達の信じる平和を持っている者達なのだから。戦そのものを否定している彼女達は、武力を振りかざすことこそが矛盾として弾劾されるのだから。
聡くその事柄を見切っていた劉璋は、黒麒麟の本質を垣間見た気がした。
しかしながら、手に入れたい眩しい存在をこれだけズタボロにした男に対して嫉妬もしている。
自分に出来ないことをしてのけたその男に苛立ちを感じるのも、桃香に惚れてしまったが故に詮無きこと。
幾分、やっと足音が聴こえた。
次第に扉に近付いてくる硬質な靴音は軍靴の音色と、小さな少女の如き音色。
敵は二人、と心を高めて身を引き締める。
さて、どうしてくれよう。部下だけでは心元無いが、明晰な頭脳を持つ徐庶も此処には居ない。自分達だけで対処しきれるかと考えても分が悪いと既に答えは弾きだしている。
部下達は警戒しているが、コトを大きくは見ていない。
単純に言えば危機感が足りないのだ。ぐるりと見回しても、緊張はしていても、何処か余裕があるように見えるのはきっとそのため。
呆れたように、彼はため息を吐く。
――分かってないなこいつら。此処に来たのは覇王に盟友とまで言わしめる黒麒麟なんだぞ。頑として何も受け付けないくらいの心持ちじゃなきゃ呑まれるっての。
自分だけだろう。そう思う。まだ劉備軍の下に走らない桔梗くらいはと思ったが、どうにも表情からは心情が読み取れず。
――信じられるのは自分だけ、か。
孤独だな、と自嘲の笑みを浮かべて、劉璋はゆっくりゆっくりと開かれる扉を見つめた。
――さあさ、始めようじゃないか。俺の国を喰らいに来たバケモンよぉ。龍の国が思い通りに
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