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バレンタインに黒薔薇を
8部分:第八章
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第八章

「ですから」
「バレンタインに黒薔薇を?」
「受け取って下さい」
 言葉は切実だった。声も。
「是非共」
「ええと、バレンタインって確か」
「だよな、それはな」
「チョコレートよね」
 晴彦の教室の皆もそれを言う。
「何でそこで黒薔薇!?」
「理解できないけれど」
「よく見て下さい」
 しかし冴子はここで彼に言うのであった。
「その花束を」
「花束」
「そう、私のこれを」
 見ろというのである。
「受け取って下さい」
「ええと、もう一度聞くよ」
 晴彦は真剣な顔で彼女にまた言う。
「これって」
「よく見て下さい」
 しかしここでまた言う冴子だった。
「この花束を」
「花束を」
「そうです、よく」
 真剣そのものの顔であった。相当に好人物の晴彦は当然ながら彼女のその言葉を受けた。そうしてその薔薇の花をよく見て見るとであった。それは。
「あれっ、これって」
「その通りですわ」
 にこりと笑って返した冴子だった。
「これはただの薔薇でありませんわよ」
「チョコレートだったんだ」
「えっ!?」
「嘘でしょ」
 周りの皆はそれを聞いて唖然となった。
「黒薔薇じゃなくてチョコレート!?」
「そんな馬鹿なことって」
「有り得るの」
「バレンタインはチョコレートと聞きましたので」
 彼女もそれはわかっていたのである。
「それでなのでしてよ」
「ええと、それはわかったけれど」
 晴彦もチョコレートはわかった。日本人ならば。
「チョコレートはね」
「はい」
「薔薇は」
「薔薇は高貴なお花でしてよ」
 それが理由だというのである。
「それを贈り物にするのが相応しいではなくて?と思いまして」
「それでなんだ。俺に」
「そうですの。貴方に」
 晴彦を見ての言葉である。その目をじっと。女の子にしては長身の彼女から見れば一七五程度の彼は決して高過ぎない、それで少し見上げる形になっている。
「贈り物としまして」
「その意味は」
「愛ですの」 
 これ以上はないストレートな言葉であった。
「紅の薔薇の言葉としまして」
「これって黒薔薇じゃなかったんだ」
「チョコレートですけれど紅薔薇でしてよ」
 まさにそれだというのである。
「その証拠に香りは」
「あっ、確かに」
 チョコレートから薔薇の香りがした。それは紛れもなく。
「薔薇だね」
「紅薔薇の香料を使いましたの」
 それを入れているというのだ。
「それで」
「それでこの香りなんだ」
「如何でしょうか」
 そしてあらためて彼に問うた。
「この薔薇は」
「俺でいいのかな」
 これが彼の最初の問いだった。
「俺で。本当にいいのかな」
「といいますと」
「俺がさ、岸本さんのこの花束受
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