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ウラギリモノの英雄譚
ムノウ――戦エナイ理由ト戦ワナイ理由
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うやら、この狐は駆けつけたプロのヒーローらしい。彼が手にしたクナイの様な武器は、怪人の血で真っ黒に汚れていた。
「ごめんね。念のため止めを刺しておいたんだ。随分汚れちゃって気持ち悪いよね? 洗いに行く? 先に病院かな」
 そこでようやく、要は自分の体が怪人の返り血でひどく汚れていることに気がついた。
 先程から鼻を突くアンモニア臭は、怪人の血の臭いだった。
「あの……女の子は……?」
「怪人に襲われそうだったっていう小さい子なら、無事だよ」
 狐面のヒーローが事の顛末(てんまつ)を説明してくれる。
 床はえぐれ、物は散乱し、血だまりが出来ている凄惨な現場では有ったが、幼い女の子に怪我はなく、途中参戦した莉子も無傷らしい。
 要が最も重傷だったが、変身している内に傷も癒えている。
 実質、被害者はゼロだった。
「君がいてくれたおかげだね」
 そう狐面のヒーローが言う。
 要は目を伏せた。

 褒められるようなことは、何も出来ていないと思ったからだ。
 結局要は戦うことが出来なかった。
 莉子が来てくれなければ、事態は解決しなかっただろう。
 誰かの危機に際しても、要は『変身』が出来なかった。
 これはヒーローとしては、失格だろう。
 だけど――、
「要くん」
 要と狐面のヒーローを見守る群衆から、莉子が飛び出してきた。
 その向こうには、要が身を挺して庇った女の子の姿も見える。ショッピングモールの入り口で、必死に女の子を探していた母親と手を繋いでいた。
 彼女達に怪我は無かったらしい。

 ヒーローにはなれなかった。
 手の届く範囲にいた誰かを何とか守ることが出来た。
 そのことに安堵(あんど)する。
 要は溜息とともに笑ってみせた。
 
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