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ウラギリモノの英雄譚
ムノウ――戦エナイ理由ト戦ワナイ理由
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『人間』の歴然とした力の差に打ちのめされていた。
 何故、怪人の対処をする『ヒーロー』などという職業があるのか。
 答えは簡単だった。
(ヒーローじゃなければ、怪人には勝てないからだ……)

 怪人の注意が近くで泣きじゃくる女の子の方へと向く。
(立たないと……)
 要は朦朧(もうろう)とする意識の中で、無理やり立ち上がろうとした。
 しかし、腰の辺りが痛むばかりで、足に力が入らない。
(くそっ……)
 遅れて意識がはっきりとしてきて、目先の危機に気が付く。
 動かない足を諦め、地面を這って怪人を追う。
 だが、怪人の歩く速度の方がずっと速い。
 一歩。一歩、と。
 動けない女の子に怪人が近付いていく。
 このままでは女の子は殺されてしまう。
 ――僕が、『変身』出来ないせいで……。
 そんなことを思った。

 戦わなければいけなかった。
 要が『変身』できない。そのツケを女の子に払わせるわけにはいかなかった。
 夢を諦め、人生を妥協して、本心を偽って……そんなことは大したことじゃない。
 自業自得の自己責任。そんなものは、幾らでも飲み込めた。
 だけど、目の前の誰かの命を。
 自己責任(要のせい)で失ってしまうことは、許せなかった。
 ――戦わなければいけい。
 
「――変身」
 確かな意思をもって、要はその言葉を口にした。
 瞬く間に、要の体をヒーロースーツが包み込む。

 傷が癒え、胸の痛みが消えていく。
 要は立ち上がる。
 しかし、急速に視界が暗く霞み始めた。
(まだだ。待て。待ってくれ)
 要が走りだす。
(ほんの一撃でいいんだ……)
 手を伸ばす。
 しかし、届かない。
(ほんの一撃、力を振るえさえすれば、こんな怪人倒すことができるのに……)
 床を踏みしめる足の感覚も無くなって、泣きじゃくる女の子の声が急速に離れていく。
 まともに『変身』することさえ出来れば――。
(女の子を救うことができるのに……)
 要の手はまだ怪人に届いていない。
 要はまだ女の子を救えてはいない。
 なのに要の視界は、真っ暗に閉じてしまった――。

 微かに音が聞こえる。
 この音もいずれ消えるだろう。
 やっぱり無理だったのだ。
 こんな時にまで、要は戦うことが出来なかった。
 このまま『変身』を解除して、もう一度だけ怪人と戦おう。
 そんなことを考えて、ためらった。『変身』を解除した自分が、運を悪くすればものの十秒でやられてしまうのが目に見えていたからだ。
 何をしても、しなくても、要には女の子を救うことが出来ない。

 真っ暗な世界の中に幼い要の姿が現れた。
 要は小さな体で弱々しく振る舞う幼い頃の自分に苛立つ。
(分かってるんだろう? 戦わなきゃ
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