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ウラギリモノの英雄譚
ムノウ――戦エナイ理由ト戦ワナイ理由
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く投げ飛ばされた怪人を要が抑えこむ。
 首を締めあげると、怪人が抵抗を始めた。
「ブルゥッ、ウッ」
 怪人はまるで獣のような動きで、力任せに要を振り払おうとする。
 何とか(とど)まろうとしたが、圧倒的な力の前に要の体はいとも簡単に引き離されてしまう。
 怪人は起き上がり、要は下らざるをえなかったが、怪人の注意は女の子から要に向いた。
 相変わらず女の子は泣きじゃくったまま動き出す様子がない。
 警報から既に五分が経過している。あと数分すればプロのヒーローが到着し、あの怪人を駆逐してくれるだろう。
 感覚を失ってしまえば女の子の動きも分からなくなる。『変身』は使えない。

「時間を稼ぐだけでいい……。大丈夫。できるはずだ……」
 要は姿勢を低くした。
 怪人は要と体格差は殆どない。警戒すべきは腕力の差だ。
 要が駆け出した。
 怪人と一気に距離を詰め、上半身に強烈なタックルを食らわせた。
「ブルァ!」
 体制を崩した怪人が再び地面に転がった。
「このっ!」
「ブル……!」
 うつ伏せに怪人を転がし、サブミッションを仕掛ける。
 怪人の右腕を抱え込みと、腕十字固のような姿勢で、怪人を押さえ込んだ。
 怪人は要を振り払おうとするが、怪人の力が作用する前に位置を変え、怪人の力を受け流す。
 紫雲の家で教えている関節技の一つだ。要は相手の力の流れを呼んで、絶対に外せない関節技を仕掛け続ける。

 要の健闘に、野次馬たちが湧く。
(このまま、ヒーローが到着するまで保たせる……)
 要も勝利を確信した。
 だが……。

 ふわり、と。
 要の体が浮いた。

「え……?」
「ブルゥァアアアアアアア!」
 怪人が奇声を上げる。

 握力で砕かれた床材を鷲掴みにした怪人が、指の腕力だけで自身と自身にまとわりつく要の体を浮かせていた。
「そんな、くそっ」
 要は出来るだけ上体を逸らして、モーメントの力で怪人を押さえつけようとするのだが、怪人はびくともしなかった。

「ブルァアアアア!」
 怪人が浮いた体を振り下ろす。
 怪人の体の下敷きとなって、要の体は床に叩き付けられた。
「かっ」
 背中を打ち付けて肺の中の空気が飛び出していく。
 酸素供給を失って、腕から力が抜ける。
 二回目の叩き付けで、要の体はボールみたいに弾き飛ばされていった。
 要が通路脇の商品棚に叩き付けられる。
 野次馬たちが息を呑む音が聞こえた。

 頭を打ち付けた衝撃で、視界の端が赤に染まる。遅れて痛みがやってきた。
 頭を打った衝撃で、何故自分がこんなことをしているのかと、記憶も少し混乱する。
 怪人を押さえ込んだ時、要は勝利を確信していた。
 なのに、今こうして地に伏しているのは、要だ。『怪人』と
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