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ウラギリモノの英雄譚
デシイリ――紫雲幾子ノ帰還
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って来ているんだよ。……母さん」
 要に母さんと呼ばれたこの人物、紫雲 幾子(シウン イクコ)が居間で茶を飲んでいた。
 幾子の見た目は、パンツルックの黒のスーツ。パッと見は、黒髪を日本人形みたいに切りそろえた十代ぐらい若い女だ。だが、こう見えて彼女は要の倍以上も生きている。

「おやおや。僕が自分の家に普通に帰ってきてはいけなかったかい? もしかして反抗期ってやつかな? 何か気に障ったかい?」
「五年間も失踪しておいて、何普通に帰ってきてるのかって聞いてるんだよ!」
「ふっ。要のツッコミは相変わらず切れが良いね」
 幾子が何事もなかったかのように、茶をすする。
 彼女は全く取り合う様子もなかったが、今この場所に彼女が居ることは、要にとっては重大な事件だった。
 三年前、プロヒーローとして活動をしていた幾子は、とある強力な怪人の討伐に加わり、そのまま行方不明となった。
 失踪から三年。生きているのかさえ危ぶまれていた彼女が、何の連絡もなくひょっこり家に帰ってきたのだ。驚かずにはいられない。

「今日まで、何してたんだよ……」
「なに。ちょっとばかり、人助けをしていただけさ」
「事件に巻き込まれてたわけじゃないんだね?」
「事件に巻き込まれるのがヒーローの仕事だろう? ただ、怪我をしていたとかいうことはないから、心配しないでおくれよ」
 幾子は、机の上に置いた携帯電話を弄りながら。
「連絡の一つもしてやれず悪かったね」
 と心ない謝罪の言葉を述べた。

 そして幾子は携帯を耳に当て、電話を掛け始めた。
「やぁ、僕だけれど。突然の電話は気に障ったかい? ところで、今日の約束だけれど何時頃にこちらに着きそうかな? ……え? もう着いてる? なら、遠慮せずに上がっておいでよ」

「お邪魔しますー」
 玄関から莉子の声。
 廊下を進んで、要の背後に莉子がやって来た。
「久しぶりの親子の再会に水を指してしまわんかったかな?」
「なに。要も母を取られたぐらいで拗ねる子供ではないさ。まぁ、遠慮せず座り給え」
 幾子に促されて、莉子が上座にある幾子の向かいに座った。
「要。悪いけれど客人にお茶を入れなおして来てくれないかな?」
「いえ、お構い無くー」
「若い子が遠慮するもんじゃないよ。あと、お茶菓子も一緒に頼むよ。僕も探しまわったんだけど、この家には冷凍パスタとプロテインと牛乳しか見つからなくてね」
「ああ、最近の要くんは、家ではそればっかり食べよるんですよ」
「何と。育ち盛りなのにそれはいけないな。料理は一通り教えていただろう? 何故、自炊をしなかったんだい?」
「最初は作っとったけど、だんだん面倒になったんよな」
緋山(ヒヤマ)君は、本当にうちの息子事情に詳しいね。もしかして君は息子をストーカーしてた
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