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ウラギリモノの英雄譚
モウシコミ――道ノ始マリ
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ていうたん、忘れたらいかんよー」
 そう言う莉子に連れられて、要が試験会場を出ていこうとしたところで。
「あ、そうや」と、莉子が何かを思い出したようにスポーツバッグの中を漁りだした。
「これ出しとかんと」
 クリアファイルから二枚のA4用紙を取り出し、入り口で受付をしている係員のところに駆け寄って行く。
「すいませーん。本年度のヒーロー認定試験、最終試験の申し込みがしたいんですけどー」
「ああ、はい。でしたら、本日の合否判定の後に受け付けますので……」
「いやいや。申し込みたいんはわたしじゃないんです」
「それでは……いったい」
「彼」

 莉子が、背中越しに要を指差した。
「へ?」
 突如話を振られ、要がすっとんきょうな声を上げる。
「紫雲 要(シウン カナメ)。彼が本年度の採用試験に申し込みますんで。……で、これが合格証と申込書です」
「少々お待ちください……はい、受理されました。それでは、こちらが最終試験の受験票と案内になります」
「どーも」
 一式を受け取ると、莉子は何事もなかったかのように要のところに戻って来た。

「ほんじゃあ、帰ろうか」
「え、ちょっと」
「ん?」
 要の前を先導し始めた莉子を、要が追いかける。
「今、何したんですか?」
「何って、申し込んでたんよ。今年の最終試験」
 二人が試験会場を出る。
 莉子は存外歩くのが速い。
「誰の?」
「要くんのに決まってるやん。わたしは二次試験も合格してないし」
「何でそうなるんですか?」

 要が足を止める。
 しばらく歩いて、莉子が足を止めた。
 立ち止まってしまった要の方を振り返る。
「おーい、どうしたん?」
「…………受けませんよ」
「ん?」
「僕は、試験なんか受けません」
 要の言葉に、莉子はきょとんとした顔をした。

 莉子が息を吐く。
 困ったように笑って、歩いた道を戻って来た。
「もう申し込んだけん、諦めて。はい、これ」
 要の手に受験票を握らせる。

 ヒーローになるための切符が、要の手の中にあった。
 だけど。
「無理だ」
 ヒーロー認定試験の最終試験は、『変身(へんしん)』した状態で戦う実技だ。
 変身すれば五感を失って満足に戦えない要が、この試験に合格することはないだろう。
「無理って……君はヒーローになりたかったんじゃないん?」
「これは返します」

 要は受け取った受験票を莉子の手に返そうとする。
 しかし、莉子はそれを受け取らなかった。
 莉子の行動に、要のいらだちが募っていく。
「勝手なことばかりしないで下さい。困るんです……」
「どうして」
「どうしてって」
「要くんが困るのは、どうして」
 真剣な目で、莉子がこちらを見据えていた。
「要くんが
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