暁 〜小説投稿サイト〜
ウラギリモノの英雄譚
ステミ――莉子ノ二次試験
[5/5]

[8]前話 [9] 最初 [2]次話
歩引き、蹴りを躱す。そして一歩踏み込む。
 男が低めの正拳突きを放った。
「くぅっ……」
 腹部に左拳を受けて莉子がふらつく。
 もう立っているのもやっとなのだろう。

 男から莉子の傷を(あん)じている様子が見て取れる。
 恐らく男は早急にこの試験を終わらせるつもりなのだろう。
「今度こそ、終わりだ……」
 要が呟く。

 男が引いた右拳で、渾身(こんしん)の正拳突きを打ち込んだ。
「っ……」
 誰もが息を呑んで試合を見守っていた。
 目を()いたのは、拳を打ち込んだ男の方だった。
「へっ」
 莉子が笑う。
 体勢をわざと崩した莉子は、肩を狙って放たれた拳を顔面で受け止めた。
 莉子の血が床に飛び散る。動揺した男に、隙が生まれる。

 莉子はその隙を逃さなかった。
 打ち込まれた腕を掴み、飛び上がって三角絞めを仕掛けた。
「ぬっ!」
 片腕で莉子の体重を支えられずに、男が前のめりになる。
 莉子は男の首に足を絡め、男の頸動脈(けいどうみゃく)を締めあげた。

「んぐぅっ……」
 男が(うめ)き声を上げる。
 莉子を振り払おうと力を込めるが、ガッチリと張り付いた莉子は、男の腕の力だけではびくともしなかった。
 一(1).二(2).三(3)……。
 時間が流れ、そして……。

「かはっ……」
 男の意識が落ちた。
「よっと……」
 莉子が男から離れる。

 男が床に崩れ落ち、自らの血を拭った莉子がノソノソと立ち上がった。

 そして要達が居る方にVサインを向け。
「勝ったー!」
 と、満面の笑みで宣言した。
「…………」
 絶句する会場内。

 倒れた男はものの数秒で意識を取り戻した。
 駆け寄ってきた係員に、「大丈夫だ」とジェスチャーし起き上がる。ずんずんと足を踏み鳴らして莉子に詰め寄っていく。
「娘が顔に傷なんか作るもんじゃない。今直ぐ治療に行きなさい」
 そう言い残して、男は(ひか)えに下がって行った。

 莉子は治療に向かう。
 その後の試験は、滞り無く進んでいった。

[8]前話 [9] 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ