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ウラギリモノの英雄譚
ステミ――莉子ノ二次試験
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ない。
 流れ作業のように、志願者達が試合場に立っては試験官の胸を借りて技を披露していく。
 それを眺める審査員も、首を振ったり感心するような声を上げたりと、型の時よりは表情豊かになっていた。

「おい、次だぜ」
 正宗が興奮してそわそわし始める。
 何気なく試験を眺めていた要も、次の志願者が莉子だと気づいた。

 会場全体が一瞬静まり返る。
「試験番号 千六百十一(1161)。緋山莉子」
 再度名乗りを上げて、莉子が前に出てくる。

 莉子の相手は空手を使う初老の男だった。
 体つきはガッシリとしているが、笑った形で深く刻まれたしわに温厚な性格が浮き出ていた。

 すると莉子は突然、右手を高く掲げた。
 そして彼女の目が、要の方を向く。
「わたしは、負けない」
 彼女が呟く。
 音こそ、聞こえなかったが、唇の動きで彼女が何と言っているのか理解する。
『試験官を倒す』――要に対し、莉子はそう音もなく宣言した。

 両者、試合場の真ん中で向かい合った。
「倒すつもりでいくけん。おじさんもそのつもりで」
 目上の人間を相手に、莉子は堂々としていた。
「おや、それはそれは」
 莉子の宣言に男は優しく笑った。
「でも、これは試合ではなく試験であることを忘れずに。それでは、挨拶をした後、いつでもどうぞ」
 男が構える。
 おだやかな表情に反して、隙がない。

「よろしくお願いしま……すっ」
 莉子が頭を下げる――ふりをして、回し蹴りを放った。
「セッ!」
 男は敢えてそれを受け、脇で莉子の足を挟んだ。
 そのまま男が寝転がって、莉子を寝技に引き込んだ。
「おっ、と!」
 体を抑えこまれそうになる。莉子は床を強く叩いて体制を持ち直した。

 莉子が男の拘束から抜け出す。
「ふぅー……危な……」
 男も床を転がり、莉子と距離を取りながら立ち上がった。
「空手なのに、寝技もあるなんてビックリしたかな?」
「別に。相手が誰かなんて関係ない。倒すだけやけん」

 莉子が呼吸を整える。
「――っ……すっ」
 息を吸い込むと同時に、莉子が飛び出した。
 イノシシの様な猛進だ。
「それはあまり良い手とはいえないね」
 男が体制を低くする。

 男と莉子の体格差は歴然だ。
 目で見ても、男のほうが莉子よりも倍以上のウエイトがある。
 そんな相手にタックルなんてしても、効果は薄いだろう。

「せいっ!」
 衝突の瞬間、莉子が足を振り上げて蹴りに切り変える。
 タックルはフェイントで本命はそっちだった。
 だが、そんなことは男も読んでいた。

「ふんっ」
 莉子の攻撃はいとも簡単に受けられる。
 本来、重さとは強さだ。
 犬が熊には勝てないように、重量差とは絶対的
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