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ウラギリモノの英雄譚
タビダチ――九重里里ノ決断
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 (カナメ)の家の最寄駅まで、要をグイグイと引っ張ってきた莉子(リコ)だったが、
「準備があるから先に行っとって」
 突然、矢の如く消えていった。

「ていうか、何であの人は僕の家を知ってるんだよ……」
 門を潜る。
 玄関のドアを開けようとしたところで、鍵が開いていることに気がついた。
「あれ? 閉め忘れたのかな……?」
 要は、何気なく玄関の引き戸を開いた。
 カラカラカラ、と子気味の良い滑車音(かっしゃおん)と共に扉が開き。

「兄さぁぁぁん!」
 家の中から、目の色を変えた里里(サトリ)が飛び出してきた。
 鍵が開いていると思ったら、里里が家に来ていたのか。

 グワシッ!
 思いっきり肩を掴んだ里里(サトリ)が、要の顔を覗き込む。

「聞いたよ。昨日、怪人に襲われたんだって? 怪我しなかった?」
「は、はい……。あの、ちょっと肩が痛いです……」
「夜に一人歩きなんてしたら危ないじゃん。バカ。今度からは夜に一人歩きなんかしちゃダメだよ。どうしても出なきゃいけない時は、私が付き添うからね」
「それじゃあ、僕が里里さんを送った意味が……痛い! 肩が脱臼(だっきゅう)しそう!」

 そして里里は要の体をパンパンと触り、外傷がないことを確かめるとハァとため息を吐いた。
「怪我がなかったなら何よりだけど……本当に気をつけるんだよ」
「心配してわざわざ見に来てくれたんですか?」
「畜生……わたしの家族に手を出すなんて許せねぇ……。許さねぇ……」
「話を聞いて下さい」
 里里の目は逝っていた。

「兄さん!」
「は、はい!」
 この場における兄さんとは、兄弟子の意味だ。
「突然で申し訳ないのですが、一身上の都合により、九重 里里(コノエ サトリ)はこの道場を卒業したいと思います」
「え……っ」
 突然の申し出に、要が目を丸くする。
 今まで要が何度勧めてもこの道場から去ろうとしなかった彼女が、いったいどういう風の吹き回しだろう。

「そんな顔しないでよ。別に要兄さんと縁を切るって言いに来たワケじゃないんだから。ここを辞めた後も、遊びには来てもいいよね?」
「ええ、それは構いませんが、急だったもので少しびっくりしました。いったいどういう風の吹き回しですか?」
「はは……大したことじゃないんだけどさ。ちょっとヒーローになろうと思って」
 ヒーローになる。
 それはつまり、既にヒーロー認定試験に合格している彼女が、プロヒーローとしての活動をするという意味だった。
 しかし、里里はプロヒーローになることにそれほど積極的ではなかったはずだ。いったいどうしたのだろうか? 要が問う。

「本当は大学を卒業する頃に考えればいいやと思ってたんだけど……、ちょっとぶっ飛ばしたい怪人が現れちゃっ
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