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ウラギリモノの英雄譚
デアイ――ソシテ、彼ハ彼女ト
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彼女の動き。はじめは何事かと思ったが、見ている内に要は、それが格闘技の型であることに気付く。
 掌底、蹴り、受けては引いて……彼女はまるで踊るように、舞い始めた。
 キレのある蹴りが宙を掻く。
 一挙一動に、見ている者を魅了する力強さが秘められていた。
 洗練されていた彼女の動きに、要は彼女が只者ではないことを理解する。
 もしかしたら、普段の要ならこうも女性を見つめることに抵抗を覚えたかもしれない。
 しかし、そんなことも気にならないぐらい、彼女の動きは美しかった。
 舞う落ち葉に彩られた彼女の演舞に、要はただただ魅了されていた。



 そして、どれほどの時間が流れただろう。
 演舞を終えた彼女の額に一筋の汗が流れる。
「ふぅ――」
 彼女が体内の熱を吐き出す。

 彼女を眺めていた要も、現実に引き戻される。
 じっと見つめてしまったことをおかしく思われたりしていないだろうか。
 彼女は近くにあった大きな針葉樹に歩み寄った。

「よっと」
 樹の枝に手を掛ける。
 そして、制服のスカートが際どくずり上がりそうになることもお構いなしに、木の上へとよじ登り始めた。
 ここの公園の木は、登ったりしても良い物だっただろうか? 庭師が丁寧に切りそろえた木々の枝でも折ろうものなら、ちょっとした事になりそうな気がする。

「おーい」
 少女が声を張り上げた。
 要に向けたものだろうか。
 彼女の方を向くと、既に三メートル以上ありそうな木の天辺に彼女は登っていた。

「何をしてるんだろう……?」
 要は呆然とその光景を眺めていた。
 すると、

 ――ふらり。

 彼女の上半身が大きく前に傾いた。
「え……?」
 そして少女の体は、頭を下にして真っ逆さまに砂利の上へと自由落下を始めた。
「ちょっと待て!」
 咄嗟(とっさ)に要は彼女目掛けて駈け出した。
 だが、彼女が登った針葉樹までは15メートル以上の距離がある。

 とても間に合わない。
 そう判断した要は叫んだ。
「変身――ッ!」

 またたく間に要の全身をヒーロースーツが包む。
 同時に、五感が失われていく。
 要は、記憶に残った距離感だけを頼りに、針葉樹目掛けて地面を蹴る。
 要は夢中で足を動かした。
 真っ暗な世界の中で、地面を走れているかも分からない。

 落下する彼女の姿を想像した。
 イメージした彼女の姿が自由落下を始める。
 そして想像の中で落ちてきた彼女を、要は五感を失ったままの状態で受け止めた。

 変身を解除する。
 まず視界が回復した。
 そして、腕に中に温かい物を捕まえている感覚が広がってくる。
 逆さ向きではあったが、落下してきた彼女の体を要は確かに受け止めていた。


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