デアイ――ソシテ、彼ハ彼女ト
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ないなぁ……」
平日の、しかも閉園間近の時間帯ということもあり、普段は観光客で賑わっている公園も人気が少なかった。それでも、チラホラと人は居るのだが、それも公園の奥へと進むに連れてまばらになっていく。
本当はこの公園は、夕刻よりも日中に人気が多い。要はこの人気のない時間帯の栗林公園が好きだった。
日常とは違う演出で彩られたこの園内で、ただ一人で迷路みたいな道を歩いていると、まるで異世界にでも迷い込んだ様な感覚が味わえるからだ。
紅い色の幹をした松を追いかけ歩みを進めた。
芙蓉峰から皐月亭の前の朱塗りの橋を見下ろし、大茶室と呼ばれた掬月亭の周囲を迂回して奥へと進んでいく。
気が付くと、周囲からは喧騒すらも消え失せ、聞こえるのは砂利を踏む自分の足音だけになっていた。
最南端に辿り着く頃には、人をほとんど見なくなっていた。
奥に行けば人が少ないのは、いつものことだ。
だが。
「おっと……?」
人気のない公園の奥に、先客が居た。
そこに居たのは、散り際のもみじの様に紅い、紅色の少女だった。
彼女は紅葉した落ち葉の舞う庭園の真ん中で、空を見上げて立っている。
美しい少女だった。
冷たい風が彼女の長い髪を揺らす。
足元の落ち葉が舞い上がる。
差し込む夕日。照らされた彼女の白い肌が、赤の世界に溶け込んでいく。
まるで美しい庭園の一部であるかのように、美しい夕暮れの世界の一端であるかのように、彼女はそこに溶けていた。
夢でも見ているのではないかと、要は何度も瞬きをした。
すると空を見上げていた彼女が、要の方を一瞥した。
そこで要はふと我に返り、慌てて視線を逸らす。
彼女はこの公園の風景ではない。ジロジロと見つめては失礼にあたっただろう。
視線は既に彼女の背後の赤壁と呼ばれる大壁に向けられていた。
しかし、要の脳内には、真っ赤な世界に溶け込んだ彼女の姿がくっきりと焼き付いている。
彼女の年の頃は分からないが、おそらく高校生だろう。彼女は要と同じ英明高校の制服にカーデガンを羽織っていた。
要と同じぐらいの年頃の人間と公園内で合うのは珍しい。
すると、視界の端に見えていた彼女の姿が消えた。
「え……?」
思わず彼女の居た方を向く。
まるでお化けでも見たのかと思ったが、違う。
凄まじく速い足運びで移動した彼女の姿が、要には消えたように見えていたのだ。
砂利を踏み鳴らす音。
再び彼女の姿が消え、現れる。
突き上げた拳と大きく踏み込んだ足。
「スッ――」
彼女は息を吸い込むと、落ち葉舞う庭園の中で舞い始めた。
突如始めた
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