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ウラギリモノの英雄譚
デアイ――ソシテ、彼ハ彼女ト
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 帰宅部の要は、早々に家に帰ろうかと思い立つ。
 しかし、身支度(みじたく)を整えたところで、担任の教師から。「職員室に来るように」と、声を掛けられた。
 もしかしたら昨日の怪人の件かもしれない。そう思って職員室に(おもむ)いた要だったが、担任教師の要件は別にあった。
「進路希望調査についてなんだけど、紫雲くんは進学だったよね?」
「はい」
 要が頷く。

「いや、何かあったって訳じゃないんだけど。……この前の模試の結果、かなり成績も上がってきていたからね。もう一つ上の大学を目指しても良いんじゃないかと思って、相談させてもらったんだ」
「あー……上の大学ですか」
 考えたこともなかった話に、要は思わず聞き返してしまった。
「もしかして今の第一志望の大学で、やりたいこととか有ったのかな?」
「そういう訳じゃないのですが」
「もしかして、噂の女子大生がそこに通っているとか?」
「何の話ですか?」
 そして噂をしているのは誰だ。
 多分、正宗だ。
 後で問い詰めておこう。
 要はそう心に誓った。
「まぁ、少し考えてみてよ。やりたいことがまだ決まらないのなら、少しでも上の大学に行っておいた方が幅も広がるだろうしさ」
「わかりました」
 要がそう答えると、教師はそれ以上言及してこなかった。
 要が職員室を出る。
「やりたいことか……」
 そんなこと考えたこともなかった。
 校舎を出たのは、まだ夕日が眩しい時間だった。
「このまま帰って暇だな……」
 今日は里里が道場に来る予定も無い。 
「そう言えば紅葉(こうよう)の時期だっけ……」
 そう思い立った要は、駅に向けていた足を栗林公園へと向けた。



 特別名勝(とくべつめいしょう) 栗林公園(りつりんこうえん)
 公園とは名ばかりで、その中身は広大な日本庭園である。
 世界的な観光ガイドで三ツ星を獲得(かくとく)するだけのことはあり、四季折々(しきおりおり)に顔を変えるその美しさは何度観ても飽きない。ゲームセンターなどのハイカラな文化にあまり興味が無い要は、暇を持て余してはここに訪れるのが日課になっていた。

 入場料を払って、中に入る。
 石敷(いしじ)きの通路は迷路の様に入り組んでおり、進む方向によって観て回れる箇所も変わってくる。全体を歩いて見て回ろうと思ったら、二時間以上の時間がかかることを覚悟しなければならない。
 要は時計を見て、一時間程度観てから帰ろうと決心し、ゆっくりと庭園の景色を観て歩き始めた。
 緑色の針葉樹が脇に並ぶ石敷きの通路を一分も進んでいくと、紅葉の色が見え始める。
 針葉樹の緑と、紅葉の赤が交じり合い、いつも見ていた世界に突然、赤が溶け込んできた様な感覚を覚えた。

「さすがに平日のこの時間は人が少
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