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ウラギリモノの英雄譚
ニチジョウ――ソシテ、3年ノ月日ガ流レタ
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以外にももっと良いところが在ると思うんですよ。それに、本気で戦えば負けるのは僕ですよ。だって僕は……」
 額に当てていた氷嚢を離す。
 変身すればすぐに治るであろう打ち身を触りながら、言葉を続けようとした時――。
「あ、目に黒いのが付いてるよ?」
 突如、里里の指が目に入ってきた。
「――ッッッ。何するんですかァ!」
「あ、ごめん。目にゴミが付いてるのかと思ったら、黒目だった」
「何をどうやったら黒目をゴミと間違うんですか!? 仮にゴミが入っていたとしても、人の眼球に触る奴がいますか!?」
「はははー。いつもよりツッコミが長いー。ビックリしたの? 痛かったの?」
「両方ですっ」
「まぁ、そんな荒ぶるなし」
 里里の手が、要の頬をムニっと摘んだ。
「要兄さんの積み重ねてきた鍛錬や技術は、私よりも確かに上だよ。ヒーローになれなくなったからって、要兄さんの価値が無くなる訳じゃない。それとも、要兄さんはヒーローになりたかったの?」
 里里の指が要の頬をムニムニとほぐす。
「だいたい私だって、取れたから資格を取っただけでヒーローになりたかったワケじゃないしねっ! もしかしたら、大学を卒業してもヒーローに就職はしないかもしれないよ。今、大学でやってる授業が面白くてさぁ、そっちの方が仕事にするなら楽しいんじゃないかなって思うんだよねっ」
 それだけ言い切ると、里里は帰りの支度を始めるため、更衣室に消えていった。

 そして、里里がいなくなった柔道場で、要は静につぶやいた。
「――変身」
 ヒーロースーツが身を包み、要の受けた傷はまたたく間に回復した。

 そして、要は目が見えなくなった。
 次に肌の感触が消え、呼気に交じる大気の匂いを感じられなくなり、口の中の唾液の味がわからなくなり、音が遠のいていく。
 五感は全く働かなくなる。
 ――そして要の世界は真っ暗に閉ざされた。
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