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乱世の確率事象改変
確率の惑うは誰が為
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実……正史によって紡がれずに居た二人の内一人よ。終端にて、ハザマに住む雉を待つがいい。さすれば願いの一つは叶うだろう」

 謎ばかりの言葉を残して闇に溶ける寸前、瞳が見えた気がした。
 誰かに似ていた。誰かは分からなかった。

 胸がもやもやする。
 ずっとずっと、彼女が消えても私は路地の闇を睨みつけたまま。
 何度も何度も、最後に残した言の葉の列が頭に反芻される。

――人々が望むのは“天の御使い”ただ一人

 私には……世界に望まれる“天の御使い”が、彼だとは思えなかった。
























 昏い路地の奥で、一人の女が空を見上げていた。
 カチカチと鳴らした歯は恐怖を表す。震える身体をぎゅうと抱きしめて、それでも空から目を離さない。

「此処は、この外史は、イカレている。
 崩壊に巻き込まれるわけにはいかない。別の私が構築されるとしても、今の私は消えたくない」

 さっと指を合わせて、幾つかの印を結び繋ぐ。

「羽を得た鳳雛が慕う男の名、黒麒麟、と言ったか。アレの後ろに居るのは……間違いない。九頭雉鶏精、胡喜媚。
 世界の外の理がたかだか一つの外史に干渉とは……消え行く運命にある虚数を救うつもりか。
 中立の予定調和は此こまで。私の今回の役目、虚数外史でありながら認識された天の御使いへの助言は終わった」

 空間が歪む。亀裂の入った宙は、何処か別の街を映し出す。

「管理者の干渉はご法度。あくまで我らは、主人公に肩入れしてはならぬ。それが役割でない以外は。
 これだけのイレギュラーが外史を掻き乱して居るのに貂蝉が出て来ないのは、そういうことか。私は今回、世界側の役割と」

 白き衣服を纏った少年が少女達と笑い合うその世界は、此処よりもずっと幸せに満ちていた。
 ずぶり、と手を入れ、彼女は少しずつ世界から切り離されていった。

 ふと、蒼髪の少女を思い出して、彼女はまた独り言を零した。

「……見えた未来と助言のほとんどは世界に選ばされた選択肢。しかし最後の一つは、世界の思惑を超えた有り得ない終端のカタチ。其処に辿り着けるのならば、恋姫外史の確率事象は改変されるであろう」

 願わくば、と彼女は目を閉じる。
 役割を果たすだけの自分は、イレギュラーには為れないと知っているから。

「絶望の果て、再演を望むのならばゼロ外史でまた会おう。御使いを否定せし異端な恋姫よ」

 亀裂が閉じれば其処には何も残らない。
 静寂の闇が、絶対者として居座るだけであった。



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