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大海原でつかまえて
10. 大海原でつかまえて
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つつ、岸田が口を開いた。こういう時の岸田はイケメンモードの岸田だというのが、長年の付き合いでなんとなく分かる。キーボードとマウスから手を離すことなく、岸田は周囲を警戒したまま話を続けた。

「おれのオトンとオカンの話だけどな。オトン、プロポーズの時にパニックになって、色々考えてた言葉も何もかも吹き飛んじまって、もうどうでもいいからとりあえずイっちゃえって感じで逆ギレでプロポーズしたんだそうだ」
「へぇえ。うちの親と全然違う感じだ」
「オカンはオカンでプロポーズされるだなんて全然思ってなくて、言われた途端にパニックになっちゃって、最終的に“あーもう意味わかんなーい”的な感じでヤケクソでOKしたらしい」
「岸田のお母さん、そんな感じには全然見えなかったけど……」
「まあな。結果はお前も知っての通りだ。単身赴任も多くて普段は中々会えない二人だけど、今でも仲は悪くない。案外その場の勢いっつーか、さっきのお前みたいに、行きあたりばったりのヤケクソで出す決断も、結構うまくいくとおれは思う」
「そっか……」
「そして二人の絆が本物なら、たとえ距離が離れていてもきっと大丈夫だ。うちの両親がいい例だ」

 なんとなく、岸田がいいたいことが理解できた。僕と姉ちゃんなら、どんな状況でどんな決断をしても……それこそやけくそで指輪を渡しても、絆は消えないと言いたいらしい。岸田はよく僕と姉ちゃんの話が出てくる度に、『比叡たんがぁぁああああ』と泣き喚き、痛恨の血涙を流す。でもそれはポーズで、本当は僕と姉ちゃんの関係を認めてくれているようだ。

「分かった。岸田、ありがとう。岸田がそういうなら自信が持てる」
「礼は全部終わった後にしてくれ。死亡フラグはごめんだ。あと、無線機もちゃんと耳に入れておけよ」

「大丈夫。入れておいた。みんなの無線もちゃんと聞こえるよ」

 僕は妖精さんが乗ったカ号を頭の上に乗せた。カ号にはベルトがくくりつけられており、そのベルトは僕が背負っているバックパックにつながっている。

「よし……じゃあ作戦開始だ!!」

 岸田がそういい、てれたびーずも砲撃を開始した。カ号のエンジンに火が入り、カ号と僕が宙に浮く。

「シュウ」

 身体が2mぐらい持ち上がったところで、岸田がまた僕に近づいて声をかけてきた。その顔にさっきまでのおぞましい血涙はなく、とても晴れ晴れとした顔をしている。

「がんばれ。絶対姉ちゃん捕まえてこいよ」
「うん。ありがとう。行ってくる。岸田も気をつけて」
「おう。任せろ」

 岸田が右手を上げた。ぼくも右手を上げ、岸田とハイタッチをする。パンという小気味良い音が鳴り、右手の平に、ジーンと痛みが走った。その後岸田はこちらを振り返らず操舵室に戻り、カ号が僕をぶら下げたまま上昇していった。

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