第三章
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首を傾げさせたままだ、彼はこうも言った。
「しかし」
「しかしですか」
「僕はまだね」
「足りないとですか」
「思うよ、けれどその足りないものがね」
「一体何かということがですね」
「わからないんだよ」
足りないと感じていてもだ、その足りないものが何かということがわからないとうのだ。
「どうしてもね」
「そうですか、じゃあまだ」
「考えていくよ、そのことも」
「伊達さんは人でありたいんですよね」
「そうだよ、人の心を持っていたいんだ」
住職に話した様にだ、人は人の心を持っているからこそ人であると考えるが故にだ。この考えは確かなものだった。
だが、だ。それでもだった。
「けれどね」
「それでもですね」
「それには足りないものがある、それは何かな」
あれこれ考えてもわからない、しかし。
彼は試合の巡業である地方都市に来た、そこでだった。
トレーニングのランニング中にふとある孤児院の前を通った、。門のところにあすなろ孤児院と書いてあるので孤児院であることがわかった。その孤児院は。
古く今にも壊れそうな建物だった、見れば設備も老巧化している。
その孤児院を見てだ、彼は思わずその前で立ち止まってまじまじと見た。
「今にも崩れ落ちそうだな」
そこまで古かった、実際に。
そのまま暫く孤児院を見ているとだ、中から一人の老婆が出て来てだ。彼に言ってきた。
「あの、どうされましたか」
「貴女は」
「この孤児院の院長です」
老婆はこう彼に名乗った、頭を下げてから。
「浅香日菜子といいます」
「浅香さんですか」
「はい」
「この孤児院の院長さんと言われましたが」
「そうです、祖母の代からこの孤児院をやっています」
「そうなのですか」
「家が教会でして」
浅香は伊達にこのことも話した。
「プロテスタントの」
「キリスト教の」
「それでずっとやっています」
「そうですか、ですが」
その古い建物を見てだ、伊達は院長である浅香にあえて言った。
「随分と」
「建物が古いと」
「大丈夫なのですか?」
「そうしたお話は」
こう前置きしてだ、浅香は伊達に答えた。
「ここでは何ですから」
「だからですか」
「こちらに」
その古い孤児院の方を右手に指し示しての言葉だった。
「お時間はありますか?」
「はい、少しなら」
「では私のお部屋で」
「お話をして頂けますか」
「そうさせてもらって宜しいでしょうか」
「はい」
伊達は浅香にすぐに答えた。
「お願いします」
「それでは」
こうしてランニングを中断してだ、伊達は浅香の話を聞くことにした。彼は質素でかつ古いそれこそ築な四十年は経とうかとしている建物の中を進んでだった。
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