第一章
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勝利者はない
塹壕での戦いが続いていた、この戦争はそうした戦争だった。
戦いは長く続きだ、イギリスではこの戦争が何時終わるのかという声が苦しい中で風刺やジョークも交えて言われだしていた。
「長いな」
「長くかかり過ぎている」
「損害が多い」
「軍事費は膨大だ」
「ドイツは何時降伏する」
「何時終わるんだ」
こうした声が起こっていた、そして。
開戦当初は海軍大臣であり今は軍事大臣を務めているウィンストン=チャーチルは自身の執務室において部下達に言っていた。
「私も後悔している」
「開戦当初のことをですか」
「閣下が海軍大臣であられた時のことを」
「そうだよ、あの時ダーダネルス=ボスポラスで素早く動いていれば」
つまりトルコ方面に海軍を出していればというのだ。
「トルコは脱落していてだ」
「ドイツは今は降伏して」
「戦争は終わっていましたか」
「そうなっていただろう」
こう言うのだった、そして。
葉巻の先を切ってそれを吸いつつだ、こうも言った。
「この葉巻ももっと美味く吸えた」
「ではその葉巻は」
「美味しくないと」
「そう言われますか」
「葉巻の葉は同じでもその時で味が変わるものだよ」
その葉巻を吸いながらの言葉だ。
「ハバナの葉巻もこうした時は」
「その葉巻はですか」
「まずい」
「そうなのですか」
「まずい程ではないが普段より美味しくはない」
それが今の葉巻の味だというのだ。
「早く美味い葉巻を吸いたい、しかし」
「今の状況では」
「戦線が膠着しています」
「損害は多く」
「軍事費もかさみ」
「しかもものがない」
物資不足にも陥っているというのだ。
「配給制になっている程だ」
「辛いことばかりですね」
「今は」
「早く戦争を終わらせたいですね」
「勝利で」
「私は勝利の時の用意しかしていない」
あえてだ、チャーチルはこうも言ってみせた。己の席に座り葉巻を吸いつつ。
「他の予定は考えていないのだよ」
「そうですね、では」
「何としても勝ちましょう」
「ドイツはしぶといですが」
「何とか」
「アメリカも参戦するだろう」
チャーチルは状況も見ていた、戦場だけではなく世界の。
「それならだ」
「アメリカの力も加わり」
「ドイツを押せますか」
「そしてそのまま」
「ドイツを降伏させられますか」
「ドイツも同じである」
ここでだ、チャーチルはこうも言った。
「辛い状況であることは」
「そうですね、ならばです」
「アメリカの力も借りて」
「そしてそのうえで」
「勝って終わりましょう」
「ビッグ=ベンの鐘は鳴る」
必ずとだ、チャーチルはこうも言い切ってみせた。
「勝利の鐘と
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