第九章
[8]前話
教会にも行く様になった、そうして言ったのだった。
「人の力は限られていて万能ではない」
「完全なものはない」
「そうだというんだね」
「そう思えてきたよ、革命でユートピアも訪れないよ」
ロシア革命でのそれである。
「ただ多くの人が殺されるだけだよ」
「それがソ連だね」
「あの国だというのだね」
「多くの血が流れて出来て」
そしてというのだ。
「それからもね」
「粛清だね」
「自分達に反対する者達への」
「そして効率性が全くない政策」
「独裁者と党を頂点とする社会だね」
「そんな社会がいい筈がないよ」
グラッグスは俯きつつ言った。
「間違っても理想の社会じゃないよ」
「現実はそうなんだね」
「共産主義は理想の思想じゃなかった」
「人を平等で幸せにする思想じゃなかった」
「そして共産主義国家もまた」
「そのことがよくわかったよ、資本主義そして神の方が遥かにいいよ」
彼等が否定したそうしたものの方がというのだ、こう言ってだった。
グラッグスは以後は資本主義を語り共産主義を完全に否定してだった。毎週日曜日には教会に行く様になった。その目にいつもあの時のベルリン、死んだ目になっていた市民達と暴虐の限りを尽くすソ連軍、橋の下の女性達が見えているからこそ。
死んだ目 完
2015・9・16
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