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異界の王女と人狼の騎士
第七十三話
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き出していた。
 俺は加速する。
 通常の加速じゃない。
 これまでの経験の中で肉体を加速する術を得た俺は、そのテストの中で加速速度を10段階に区分していた。
 これまでに使った速度はレベル5までだ。
 それ以上の急激な加速は肉体へのダメージが発生することが分かっている。それ以前の加速レベルでももちろん体にはダメージがあるのだけど、それを上回る回復力を俺が備えていたため支障は無かったんだ。

 もちろん、肉体は損傷しているんだからそれ相応の痛みはあったんだけれど。それを越えた時どうなるかは分からなかった。
 骨は折れ、肉はえぐれ、腱は断裂するんだろうか。心臓は持ちこたえるのか?
 しかしそんなことを考えていたら、間に合わない。

 恐らくは最大出力だ。
 
 猛烈な加速感を感じながら俺は走る。
 周囲の風景がほとんど停止して見えている。
 途中にあった大型の冷蔵庫を右手で掴むと、そのまま一気に王女の側まで駆け寄り、急停止する。
 ゴキリという鈍い音と、激しい痛みが両足に走る。
 しかしそんなことは無視だ。

 冷蔵庫を盾のように立てかけ、王女を庇うようにして抱きしめる。
 金属片が俺たちの周囲に降り落ちてきたのはほぼ同時だった。

 破裂音、炸裂音、破壊音。
 金属が金属にめり込む音、跳ね返る音。床に突き刺さる音。硝子が割れる音。
 金属と金属、金属とプラスチック、金属とコンクリート、金属と木。
 あらゆるものがぶつかり合い、破壊される音が土砂降りのようにあたりに一斉に響く。

 嵐はすぐに去り、俺は王女の無事を確認する。
 起きあがると、冷蔵庫をどける。
 大きな音を立てて、冷蔵庫がフロアに倒れ込む。
 冷蔵庫の表面は破壊の凄まじさを見せつけている。表面は鋭利なもので滅多差しにされた粘土細工のようにボロボロになっていた。一部はドアを貫通している。
「危なかったなあ」
 俺は辺りを見回し呆然とする。
 周囲にあった家電コーナー製品は完全にスクラップになっていた。あまりの酷い有様で、この店が営業再開するのには少し時間がかかるんだろうな。

「シュウ、お前大丈夫なのか? 」
 珍しく王女が心配そうな声を上げる。
 ふと見ると俺の右足首が妙な角度に曲がっていて、白いものが皮膚を突き破ってきている。
 あの速度で走ってきて急停止かけたから体が保たなかったんだな。
「ちょ、ちょっと待ってね」
 そう言って、両手で足首を掴みまっすぐに補正しようとする。で、両手をみてまた驚いた。
 右足首を押さえてるその右手も指が5本ともあり得ない方向にへし曲がっているし、骨も出てたりする。強引に冷蔵庫を掴んで走ったから予想通り折れたんだ。
 まあ千切れてなかったんで結果オーライだ。ただし見た瞬間、激痛が
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