結
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盾の中で、ただ手を取り合い、協力し合うだけの難しさ。
それでも、ここがそんな世界であったなら、どんなに……。
「私は長く床に臥せていた。おじさんはずっと、私に負い目を感じていた。君も、たくさん苦しんできたのでしょう? もう良いんだよ。私達は互いを赦そう。君が責めて欲しいのなら、私はこう答える」
座ったまま体を傾けて、自分に向き直り。
膝に置いた自分の両手を、テオの温かい手がそっと包む。
「楽な生は無いよ。ってね」
少年のように微笑む青年。
ふと、その顔が自分の顔にすり変わる。
この状況と言葉の内容、レゾネクトと自分のやり取りにそっくりだ。
「人は、人を映す、鏡……」
「ん?」
「いいえ、なんでもありません。どうやら私は、貴方を含めた周囲の人間に一生敵わないらしいと再認識しただけです」
「愛されてるんだね」
「ええ。分不相応なくらい、溺愛されてます」
「あははっ! それは良い。自覚してるなら、たっくさん返さなきゃ! 皆、きっと待ってるよ。君がその手を伸ばしてくれる時を」
ふんわり細まる目。
今度はプリシラの顔が重なった。
「そう、ですね……。返し切れる気はしませんが、ほんの少しだけ、派手に大盤振る舞いするとしましょう」
彼女には、生きている間にもう一度ちゃんと挨拶をしなければ。
死後、何をされるか分かったものではない。
苦笑いで立ち上がった自分の肩を、同じく立ったテオに抱き寄せられ。
次に浮かんだのは、アーレスト。
「また会えて嬉しかったよ、クロスツェル。これからの君に、女神アリアの祝福が舞い降りますように」
本物のアリアには、拒まれ気味ですけどね。
こればかりは、どうしようもない。
「ありがとうございます、テオ。貴方がこれから歩んでいく道にも、どうか数多くの祝福がありますように」
自分も、テオの背中に腕を回す。
長衣越しに指先で感じた違和感は、変形した傷跡か。
「でも、良いの? 今日はもう暗いし、宿の手配とかは」
「外に待ち人が居るので。急いで戻らないと捨てられてしまうんです、私」
「それは大変だ。早く行かなきゃ」
「ええ。全速力で走らないと」
一歩離れた場所で、互いに肩を揺らして笑い合う。
失ったと思っていた綺麗な命。
今度こそ、幸せに……
あ、そうだ。
「これ、差し上げます」
プリシラからの餞別とは別にしまっておいた、小さな白い布袋。
それをコートの腰ポケットから取り出し、テオの手に乗せる。
「私が子供の頃からずっと大切にしていたお守りです。ご利益が抜群すぎて身に余るほどなので、貴方が持ち主になっても効果は持続するでしょう」
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