結
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おじさんから君を庇い、結果被害者になった一般人。おじさんは畑を荒らされた被害者で、結果私を殺しかけた加害者だ。これは間違いないよね」
「ええ」
「じゃあ、仮におじさんが持っていたのが鍬ではなく、収穫物だったら?」
「え?」
「君に「畑を耕す手伝いをしなさい。これは前払いだ。受け取ったら、荒らした分と合わせてしっかり働きなさい」と言っていたら、君はその提案を蹴り、更なる危険を冒してまで他の畑を荒そうとした?」
いや、盗人相手にそんな提案をする人はいないと思う。
でも、私はただ食べたかっただけだ。
食べていける環境を与えてくれるのなら、断る理由は無い。
首を振る私に、テオは頷く。
「つまり、おじさんが君に鍬を振り下ろすのではなく、手を差し出していたら。物の対価が労働であると、身を以て証明できていたら。被害者も加害者も存在しなかった。私はね、あの一幕は社会の縮図だと思ってるんだ。誰もが必死に生きていた。だからこそ協力し合えばもっと効率良く畑も耕せたし、その分救えた命もあったのに……現実は内輪完結した無数の集合体が対立し、いがみ合い、互いを蹴落とそうと躍起になってる。私達は知恵と知識を獲た知能を持つ生命体なのに、やってる事は他種族の子供を我が子のように育てる犬以下だ」
排他主義。ベゼドラが人間を嘲笑う理由の一つ……か。
「自らの価値観を正しいと信じ、自分と同調しない異分子は害悪として排除したがる。それが悪いとは思わないよ? 自分や周囲を護ろうとするのは生物として当然の本能だ。でも、その姿勢が加害者や被害者を作り出してる。君も私もおじさんも、拒絶ありきの集団心理が生み出した加害者で被害者なんだよ。要するに、あの場面では誰も悪くない。三人共自分に余裕が無かっただけ。ね? 君の所為じゃないだろう?」
詭弁だ。
実際は、畑の所有者が畑を荒らされたのだから怒るのは当たり前だし、他人の所有物に手を出した私は絶対に悪い。
テオは純粋に巻き込まれた被害者だというのに。
ああ、でもこれは……私が信じていたアリア信仰の思想そのものだ。
生を取り巻く矛盾の中で、ただ手を取り合い協力し合うだけの難しさ。それでも、そんな世界を築けたならどんなに……。
「私は長く床に臥せていた。おじさんはずっと私に負い目を感じていた。君もたくさん苦しんできたでしょう? もう良いんだ。私達は互いを赦そう。君が責めて欲しいのなら、私はこう答える」
座ったまま体を傾けて向き直り、膝に置いた私の両手を、テオの温かい手がそっと包む。
「楽な生は無いよ。ってね」
少年のように微笑む青年。
ふと、その顔が自分の顔にすり変わる。
この状況と言葉の内容、レゾネクトと私の遣り取りにそっくりだ。
「人は人を映す鏡……」
「ん?」
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