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大海原でつかまえて
06.重い切り札
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箱が光った気がした。僕の心臓がバクバクと鳴り出し、緊張していることが自覚出来た。

「開けてみろ」

 言われたとおり、小箱を開ける。中に入っていたのは、一つの指輪だった。

「それは本来、俺達のような鎮守府を預かる提督と、その鎮守府に所属する艦娘にしか持つことを許されないものだ。そして艦娘にとっては戦闘能力を劇的に向上させる艤装の一種にして、提督との深い絆の証でもある。岸田から聞いたことがあるかもしれんが、ケッコンカッコカリというやつだ」

 そういえば岸田が前に、姉ちゃんに指輪を渡そうとしたら拒否されたって言ってたな……

「正直、提督ではないお前と比叡の間で、ケッコンカッコカリが成立するかどうか俺には分からん。成立したとして、それがちゃんと機能するかどうかも未知数だ。だが賭けてみる価値はある。その指輪を比叡にはめてやれば、今比叡が負っている傷は全快する。あとは補給さえ出来れば、比叡は全力で戦えるようになる。……そしてキミは、恐らく指輪を渡した瞬間、元の世界に戻ることになるだろう」

 そうか。だから提督は、さっきあんな質問をしてきたのか。

「そしてもちろん、比叡にとってもお前にとっても、その指輪はそれ以上の意味合いを持つ絆になるはずだ。お前が元の世界に戻ってしまう兼ね合いもある。だからギリギリまで考えて、はめるときはよく考えてはめてやれ」
「確かに……ケッコンだもんね……僕が姉ちゃんにはめてあげても大丈夫なのかな……」
「こんなケースは過去に前例がないから、正直どうなるかは分からん。だがそのケースを手に持った瞬間から、その指輪はお前の指輪だ。だから、もし渡さなければ、その指輪は意味がないものになる。その時はこっそりと海にでも捨ててしまえ」

 こんな大切なもの、そんな風に捨ててしまっていいのだろうか……

「構わない。その指輪は提督や艦娘たちにとって、それだけ重い物だ。ましてやお前と比叡は事情が違う。“渡さない”というのも立派な決断だ。だから渡せないとしても、誰もお前を責めないし、俺が責めさせない。だからよく考えてくれ」

 真剣な眼差しでまっすぐにこちらを見つめそう語る提督の姿が、どことなく岸田とかぶった。普段は今一頼りなくて、時々哺乳類から無脊椎動物や生ける屍に退化するけど、しめるところはきっちりしめる誠実な男。それが岸田であり、この叢雲たんチュッチュ提督なのだろう。

「俺がどれだけ残酷なことを頼んでいるか分かっているつもりだ。本来なら、お前は鎮守府で待機してもらうべき人間だ。そうすれば比叡と共に過ごせる可能性もある。それなのに、お前にこんなことを頼んでしまってすまない……」

 最後に提督はそうしめくくり、帽子を脱いで僕に頭を下げた。こういうところは、岸田の分身だと納得出来る感じだ。姿形は似
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