第十六章 ド・オルニエールの安穏
第四話 抱擁
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もここに来るのは当然のことでしょう」
「…………はぁ…………へ?」
オルレアン公夫人の言葉に頷いたイザベラだったが、一拍の後その言葉の意味を理解し間の抜けた声を漏らした。
「あ? え? その―――あれ?」
混乱する思考を抑えるように、イザベラが頭を抱えた時であった。食堂の出入り口から新たな影が現れたのは。
「―――ッ!!??」
イザベラの目に、居るはずのない人物の姿が映る。
「…………っ、ぁ」
一瞬イザベラの目の前が暗くなり、全身から力が抜ける。傾げる身体に、そのまま椅子から転げ落ちそうになるのを慌てて止める。その勢いのまま、イザベラは椅子の背もたれに手を掛け立ち上がった。
「ち―――ちち、うえ……?」
前を見ると、食堂の入口には、かつて見た時と変らない父の姿があった。
いや、少し痩せただろうか。堂々たる偉丈夫だった父の身体が、以前見たよりも小さく感じられた。その違和感が、目を逸らせば消えてしまうのではないかという不安を煽る。知らず、手は背もたれから離れ、足は食堂の入口―――父の下へと向かっていた。
ふらふらと初めて歩いた赤子のような足取りであったが、少しずつその足は父の下へと向かっていく。
段々と大きくなる父の姿。今やその表情すらハッキリと見える。
痩せたと感じたのは間違いではなかった。
血色が良く、二十代にも負けない若々しい張りと艶があった肌が今や見る影もない。明らかに本来の年齢より十は歳上に見られるだろう。頬の痩け方など、まるで病人のようだ。
しかし―――。
「っ……ちち、うえ」
手を伸ばせばその身体に触れられる程の距離で立ち止まったイザベラは戸惑っていた。
自分を見下ろす父の瞳に。
あの日、最後に見た父とは明らかに違う。
今、自分を見つめるのは、あの、まるで底のない虚無じみた瞳ではなく、一人の人間として悔恨と悲しみに染まったそれであった。
「ほんとうに……ちちうえ、なのですか?」
だからこそ、イザベラの口からは誰何する言葉が出た。
父の姿をしていながら、父とは思えない誰か。
しかしそれでも、自分の中の何かが叫んでいる。
この人はわたしの父だと。
「……あ―――ぇ?」
気付けば視界が滲んでいる。
何時の間にか溢れ出した涙が視界を歪め、声も濁り始めていた。
それでも、イザベラは手を伸ばし声を上げた。
まるで、長い間迷い続けいていた、探し続けていた何かを見つけた子供が、恐る恐る手を伸ばすかのように……。
そして―――。
「―――ぁ」
暖かいなにかで包まれた。
それが抱きしめられたということに、直ぐにはわからなかった。
初めだったからだ。
この人に
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