第十六章 ド・オルニエールの安穏
第四話 抱擁
[1/14]
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
「―――陛下はなかなかおやりになりますな」
タバサは億劫そうに顔を上げると、何処か眠そうな目で隣りに立つ男を見上げた。男の歳の頃は二十代後半。神官服を着た常に笑みを絶やさない男である。一見すれば人懐っこそうに見えるが、その目は常に笑ってはいない。
今もまた、顔に笑みを貼りつけながら興味深そうに見つめてくる男から目を離すと、止めていた足を動かしタバサは歩き出した。
「効率を優先しただけ」
ガリアの新しい女王タバサの記念にと、新しい建築物を造る工程で監査官と作業員の石工との間で争いをタバサは止めた。その争いは、近づいてくる夏を前借りしたかのような強力な日差しから木陰に避難していた石工に対し、監査官が休んだ分賃金を下げると言ったのが諍いの原因であった。
まるで子供の喧嘩。
半ば呆れながらもタバサは解決作として、風の使い手である貴族たちに石工に風を吹くよう命じた。その結果は、魔法に誇りを持つ貴族たちは不満を感じながらも、新女王の命令だからと渋々といった様子で従い、石工たちは話の分かる新女王に歓声を上げるというものであった。
タバサはチラリとも男に視線を向ける事なく歩き続ける。
その小さな身体を王家のマントに包み、その青い髪を王冠で飾るタバサの後ろを、幾人もの延臣が付き従っている。
歩きながらタバサは神官服の男を―――ロマリアから派遣された助祭枢機卿であるバリベリニ卿の事について考える。補佐件連絡員としてロマリアから派遣されてきた男であるこのバリベリニは、件の政変の後、トリステインに倣い宰相としても登用したのであるが、問題はこの男を推薦したのが教皇その人という点であった。内心を悟らせない笑顔の仮面を常に被り、その本心は全くと言っていいほど分からない。しかし能力は高く、政変による混乱を最小減に抑えている手腕は確かなものであった。
とは言え敵か味方といえば敵だろう、とタバサは考えていた。
タバサはロマリアを信用してはいなかった。
今のところロマリアからの干渉は見られない。
即位にロマリアの力を多分に借りたことになっているため、どのような要求をされるかと警戒していたが、肩すかしを食らった気分であった。
気付かないだけで、自分の見えない裏側で干渉しているのかもしれないが……。
これまでの人生、様々な裏の仕事で命のやり取りの経験はあるが、残念ながら政治の経験はなかった。そんな自分の目を掻い潜り何らかの工作をしていてもおかしくはない。
それに何より。
政治には疎いが、これまでくぐり抜けてきた多くの修羅場により得た野生の獣にも似た直感が訴え掛けてくるのだ―――。
―――彼らは何かを企んでいる、と。
油断は出来ない。
そう、例え……。
タバサは不意に足を
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ