3部分:第三章
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第三章
「何がどうしたんだよ」
「御前あの娘と楽しくやってるからな」
だからだと。漫画を読むのを少し中断して。
それからこいつに顔を向けて。こう言ったのだった。
「俺も彼女をな」
「欲くなったのかよ」
「ああ。誰かいねえのかな」
「何なら紹介してやろうか?」
すぐにだ。こいつは俺に屈託のない笑顔で言ってきた。昨日の喧嘩で腫れあがったその顔で。
「そうしようか?今度」
「ああ、それでどんな娘なんだ?」
「俺の妹だよ。どうだ?」
「ああ、あの娘な」
「丁度彼氏探してるんだよ。どうだよ」
「あの娘は遠慮するぜ」
俺はちょっとな、という顔になってこう答えた。
「気持ちは有り難いけれどな」
「何でだよ」
「ダチの妹ってのはな」
そんな娘と付き合うのは。どうかと思ってだった。
「引けるな。気が」
「おい、それでかよ」
「ああ。それにあの娘は真面目だろ」
「俺達と違ってな」
「だったら余計にいいさ」
遠慮する、そうするとだ。俺はまた答えた。
「気持ちだけ受け取っておくさ」
「わかったぜ。じゃあな」
「別の娘紹介してくれるか?」
「探しておくぜ。じゃあな」
「ああ、この漫画読み終わったらな」
俺は机に足を放り出した姿勢で雑誌を読みながらこいつに言った。
「渡すからな」
「悪いな。それじゃあな」
「今週も面白いぜ」
野球漫画、俺の大好きなそれを読みながらの言葉だった。
「かなりな」
「そうか。じゃあ楽しみにしてるな」
「すぐに読み終わるからな」
俺は少し急いで読みながら言った。
「ちょっと待っててくれよ」
「ああ、ゆっくりでいいさ」
「そうしていいのかよ」
「漫画は何時でも読めるからな」
だからだと。俺に笑って言ってきた。
「だからゆっくり読んでくれよ」
「まあ。急いで読むからそこで待ってな」
「悪いな」
俺達は笑顔で言い合いだ。そのうえで腫れた顔をお互いに見た。俺はこいつが好きでこいつも俺を好きでいてくれる。ダチってのは本当に有り難い。ワル同士であっても。このことを心から実感し合っていた時の話だ。
BAD BOY 完
2012・3・4
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