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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第一話 神々の戯れ
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「大神オーディンよ、お願いです。息子を、エーリッヒを助けて下さい」
「ヘレーネ。……大神オーディンよ、私達の願いをお聞き届けください」
若い夫婦が病院で必死に祈っていた。彼らの息子は生まれた直後から身体が弱く医師からは育たないかもしれないと言われていた。彼らに出来る事は祈る事だけだった。例え不確かなものでも彼らには神々に縋る他は手段が無かった。医師が当てにならないのだから……。
二人の男性が椅子に座ってテーブルに置かれた盤を見ていた。そしてその周囲には大勢の男女が居た。二人がしているのはチェスではない。盤の上には無数の人間の形をした駒が乗っていた。二人とも人間の姿形をしていたが人では無かった。一人は老人、一人は若者。かつて神と崇められそして新たな神の登場により忘れられた者達だった。周囲の者達も同様だった。しかし彼らは奇跡的に復活した。或る物語によって。
「どうかな、この物語は」
「いかにもあなた好みの物語だ。流血と炎、破壊と再生、そして短すぎる一生。私の好みではない、私ならもっと上手く書ける」
若者が艶然と笑うと老人は面白そうな表情を浮かべた。老人はこの若者が嫌いではなかった。時として腹の立つ事も有ったが嫌いではなかった。だが周囲の神々はそうではなかった。彼らは自分達の長に対する不遜な物言いに不満そうな表情を見せた。彼らはこの若者の所為で酷い目に有っていた。もっとも同程度に助けられていたため口に出して非難はしなかった。
「ほう、どうやって」
「貴方は英雄が好きらしい。強く輝かしい男が。だがそういう男は強くはあっても脆い」
老人は不満そうに顔を顰めた。確かに彼の選んだ人物には脆さが有った。だがそれこそが英雄の持つ魅力だとも思っていた。そして老人は何よりも英雄が好きだった、昔から。
「平凡な男の方が時として柔軟で強かなのだ」
「ほう、しかし物語が書けるかな?」
老人は暗に平凡な男には書けないだろうと挑発した。英雄だから物語が書ける、物語が輝くのだと思った。周囲の神々も頷いていた。だが若者は笑う事を止めなかった。
「試してみよう」
「ほう、駒は幾つ使うのだ?」
「一つだ」
ざわめきが起きた。皆が驚いている。
「一つ? 平凡な駒を一つか。それで物語を書けるのか?」
若者は挑発には応じなかった。
「貴方の所に若い夫婦が祈りを捧げている筈だ。息子を助けて欲しいと」
「知っている。だが助ける事は出来ぬ。哀れだがあの子の運命は決まっている」
「それを使わせてもらう」
若者が手をかざし空中から駒を取り出す。そしてその駒をじっと見た。
「お前にはノルンの力が与えられている。平凡な男だがその平凡さがお前を動かし周囲を動かすだろう。行け、行ってお前の物語を紡ぐが良い、私に似た者よ。若き
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