優艶なる王達の茶会にて
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けても言わない。
こんな華琳の姿を見たのは私塾に入り立ての頃くらいであろうか。麗羽は暖かくなる胸に手を当てて、少しだけ視線を空に向ける。
これ以上は喧嘩になるだろう。認めない事も知っているし、追求もすべきではない。素のままで語り合うのはいいことだが、機嫌を損ねたままで終わるのは後味が悪い。
もはやこれまで。喧嘩をするくらいなら此処で終わらせた方がいい。そう考えて、彼女は口を開く。
「では華琳さん。朔夜さんと七乃さんと“あの方”と共に発展を進め、愛しい片腕と愛しい兵士達や民達と共に河北と中原を守り抜いてみせますわ」
ゆらりと立ち上がった。
束の間の休息、友達とのお茶会は終わり、また自分は人々の為の存在へと戻るのだ。
「……任せましょう。報告は確かに承った。河北の安定具合から鑑みても、貴女が自由に動いても問題は出ない。風と朔夜、月が帰還次第、曹操軍を動かし西涼を手に入れるから、それまで河北の掌握を深く紡いでおく事。そして私が覇道を征く間、我が愛しき平穏を守り抜きなさい」
返答と命令。
指二つでスカートの裾を摘み、麗羽はお辞儀を一つ。
滞在中に娘娘で少しだけ見たことのある所作が、従僕のような自分には似合っている気がしたから。
「ご随意に、覇王様。
天たる陛下を頂点に、そして貴女と“妹君”の臣下でもあるこのわたくしにお任せを」
こういうときはなんというんだったか。
きっと遠くで暗躍している黒ならば約束を紡ぐのだろう。自分には何かないかと考えて……思いついたのは、覇王の為の兵士達が上げる約束だった。
華琳の前で、人々に全てを捧げた自分だからこそ言う価値があった。
小さく微笑む。気品溢れるその美女は、自らの想いと重なる言の葉を捧げた。
「……華々に光あれ」
気に喰わないと思いながらもその言の葉を華琳は呑み込む。
最後の紅茶を飲み切って、また大きなため息を吐いて彼女は立ち上がった。
「……仕事だけじゃなくて、次のお茶会も楽しみにしてるわ」
「約束、ですわよ?」
「ん、約束ね」
「では行ってらっしゃいまし。雛里さんや“あの方”との『でぇと』を楽しんでいらして」
「当然。あいつが居ない今がいい機会だわ。しっかり私色に染めないと。じゃあ、またね」
「ええ、また」
穏やかな午後のこと。
背中を見送る王と、背中を見せる王が一人ずつ。
どちらも振り返ることなく、ただ真っ直ぐに前を見ていた。
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