巻ノ二十三 箱根八里その七
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「そして小田原じゃ」
「わかりました」
「では小田原にも行きましょう」
「あの町にも」
「そして上田に帰るのですな」
「そうするとしよう」
こうしたことを話してだった、幸村は今は箱根の湯を楽しんだ。そうして湯を楽しんで酒を飲み一泊してからだった。
宿を出てさらに先に進む、そしてだった。
伊豆に入ってだ、幸村は伊豆の海岸を歩きつつ共にいる家臣達に言った。
「ここもいいところじゃな」
「ですな、この海も」
「奇麗な海ですな」
「波も見事で」
「よい海です」
「この海からさらに行くと伊豆の島々がある」
幸村あはその海の先の方を見ても話した。
「そしてその島に源実朝公が流されたが」
「そこで自害したとも言われていて」
「若しくは琉球まで行って王になられたとも」
「その辺りはっきりしておりませぬな」
「どうにも」
「拙者は王になっていて欲しいと思っている」
幸村は己の望みを話した。
「あれ程の豪の方があのまま散ったのではな」
「残念であると」
「そう思われるからですか」
「うむ、それではやはりな」
残念だとだ、幸村は言葉の中でこうした言葉も含ませた。
「そう思うが故じゃ」
「ですな、やはりあの方はです」
「王になっていて欲しいですな」
「是非共」
「そして身を立てていて欲しいですな」
「そう思う、あの方は弓で船を沈められたそうじゃしな」
こうした話が実際に残っている、実朝の弓は相当なものでその腕は八幡太郎義家にも匹敵するとも言われているのだ。
「それだけの武勇の方じゃしな」
「ですな、しかし」
ここで最初に言ったのは清海だった。
「源氏はどうにも」
「身内同士で争ってばかりでしたね」
伊佐が兄に応えた。
「平家との争いの際にも」
「そうじゃ、まず身内で殺し合っておった」
猿飛も言う。
「頼朝公と義仲公といいな」
「保元の頃からじゃな」
源氏の争いが何時からとだ、穴山が言った。
「あの家は身内で殺し合ってばかりじゃった」
「それで義朝公のご兄弟がおらんようになった」
由利はその目を顰めさせている。
「そして義朝公が殺されて」
「頼朝公の代もじゃ」
眉を曇らせてだ、根津も言った。
「義経公ともじゃったし」
「挙句は実朝公が公卿殿に殺され」
望月は頼朝の子、孫の代の話をした。
「誰もおらんようになった」
「結局身内同士で争い一人もいなくなった」
霧隠はそこに忌々しげなものを見てその整った顔を歪めさせた。
「血は完全に絶えた」
「本当に見事に誰もいなくなったな」
海野も言った。
「完全にな」
「為美公の血筋は一人もいなくなった」
筧も実に残念そうな顔で言う。
「源氏嫡流はな」
「結局身内で争ってばかりでじゃ」
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