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SAO−銀ノ月−
第九十三話
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対して突撃を敢行する。迎撃に放たれる触手を二刀を総動員しながら、切り裂き、弾き、軌道を逸らし、本体に向かっていく。

「ルクス! 無茶!」

 リズの警告の悲鳴が響き渡るが、ルクスの二刀は難なくクラゲの攻撃を弾いていく。クラゲがルクスの迎撃よりも、何より優先して海岸に向かおうとしているのも理由だが……巨大クラゲとしてもパーティーについてきて欲しくないのか、巨大クラゲの防戦も激しくなっていく。

 ――いい加減追いすがろうとするルクスに業を煮やしたのか、巨大クラゲは特に太い触手一本で天井を思い切り叩く。すると天井から雨のように、卵のようなものが大量に落下してきた。

「これは……? あっ!」

 触手を捌きながらその降り注ぐ卵を避けることは出来ず、やむなくルクスは巨大クラゲから離れると、その隙に巨大クラゲは高速で出口に向かってしまう。追おうとしたルクスの胸に、一つの卵が着地すると――一瞬で孵化したかと思えば、小さいクラゲが胸の卵から姿を現した。

「うわっ!」

 反射的に振り落としたことで大事には至らなかったが、恐らくあのクラゲの幼生体もMPを吸い取る触手を持っている。しかし……先程雨のように降り注いだ卵が、全てあのクラゲの幼生体であるならば――

「――――ッ!?」

 地上や壁を覆い尽くすほどのクラゲの幼生体に絶句している間に、天井から落下してきたクラゲの幼生体の触手に、腰に巻いていたパレオが引っかかって――いや、狙って取ったのかもしれないが――足が露わになってしまう。

「あっ、パレオ……返して!」

 しかして、急いで足を隠すルクスにそのクラゲを追うことは出来ず、それはどこかへ消えていってしまう。片手で足のある一部分を隠したままのルクスは、その二刀を振るうことすらままならず、徐々にクラゲの幼生体の群れに追い詰められていってしまう。メンバーに合流しようにも、巨大クラゲの進行を防ぐために突出してしまっていた。

「くっ……」

 足に刻まれたトラウマが蘇る。あの浮遊城で受けた傷は、まだルクスにとって乗り越えられるものではない。ALOにコンバートされた時に、あの印はどこかに消えて、今はもうないけれど――今は――?

 ――『人それぞれ色々あるし、あんまり聞かないけどさ。スッゴいスラッとして、綺麗な足でうらやましいよ!』

「……ふっ!」

 先程デュエルしたインプの少女の、朗らかな笑みとともに放たれた言葉を思い出し、ルクスは二刀を以てクラゲの幼生体の群れを薙払う。自分の過去を知る者はもう誰もいない――ならば、気にしているのはもう自分だけだ。大事なのは過去じゃなく今という意味のことを、彼女はこのゲームに来る前にショウキから――本人は照れくさそうにして否定するだろうが――伝えられていた。


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