暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアート・オンライン〜Another story〜
GGO編
第210話 救えた命
[32/32]

[8]前話 [9] 最初 [2]次話
稚園の制服らしいブラウスの上から、かけたポシェットに手をやり、ごそごそと何かを引っ張り出した。

 それは、四つ折りにした画用紙。

 そこには、クレヨンで描いたと思しき絵が広がっていた。中央に髪の長い女性。ニコニコと笑う女性はきっと母親。そして、右隣は三つ編みの女の子。自分自身。……そして 左隣には眼鏡をかけた父親だろう。

 そして、何よりも眩しく見えたのは、一番植えに、覚えたばかりなのであろう平仮名で

 《しのおねえさんへ》

 と記されている。

 瑞恵が差し出すその絵を、詩乃もしっかりと両手を伸ばして受け取った。それを確認した所で、瑞恵は大きく息を吸い込むと、一生懸命に練習してきたらしい、たどたどしい声で、一音一音、はっきりと言った。

「しのおねえさん、ママとみずえを、たすけてくれて、ありがとう」

 その言葉が……詩乃にとっての引き金だった。

 視界の全てが、虹色の光に満たされ、そしてにじみ、ぼやけた。
 それが、自分自身の涙だったのに、気づくのには時間がかかった。

 後悔で涙を流してしまう事はあった。……隼人が自分の為に怪我をし、ベッドで眠っている時だ。だけど、こんなに、こんなに 優しく、清らかで、何もかも洗い流してくれるような涙があるなんて……。

 幼き少女が自分にくれた光。……心の形。

 そこに涙の雫が落ち……滲んでいく。止まらない涙。

 幼き少女はもう1つ……自分に贈り物をしてくれた。

 まだ、火薬の微粒子によって作られた黒子が残る、まさにその場所を――小さな柔らかい手が、最初はおそるおそる、しかし、すぐにしっかりと握ってくれた。

 
 温もりに、違いは沢山あるだろう。

 過去の闇を 打ち消してくれる温もり。

 そして……罪を、罪を赦してくれる様な、温もり



 過去の全てを受け入れられるようになるのには、まだまだ、長い時間がかかるだろう。……だけど、私は、わたしが今あるこの世界が、好きだ。

 一度、離そうとした。……でも、そんな事はもうしない。全てを抱きしめて、生きていく。



 生きることは苦しく、伸びる道は果てしなく険しい。

 それでも歩き続ける事はできる。……その確信がある。


 だって、彼に抱きしめられた温もりも、この幼き少女に繋がれた右手の温もりも、……この頬に伝うまた違う種類の涙も、こんなにも温かく、全てを包んでくれるのだから。







 
[8]前話 [9] 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ