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外伝 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
ささやかな願い 〜 ユスティーナ 〜
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った。聞けば聞くほど違いを感じる。陛下が夫の事を非凡だが平凡でありたいと願っていると言っていた。夫が自らを凡人というのはその所為だろうか? 孤独になるのを恐れているのだろうか?
「貴方は孤独では有りませんの?」
夫が驚いたように私を見た。そんなに思いがけない質問だったのだろうか。重圧に苦しんでいるのではないのだろうか。
「……孤独ではないと思う」
ゆっくりとした、しっかりとした口調だった。嘘は吐いていない。
「仕事を重い、苦しいと思う時が無いとは言わない。だが私は一人じゃない。相談出来る人もいれば協力してくれる人もいる」
夫が不意にクスクスと笑い出した。
「食えない人もいるけどね」
「食えない人? どなたですの?」
夫が悪戯っぽい笑みを浮かべている。少しは気分が上向いたのだろうか。
「陛下とリヒテンラーデ侯かな、他にも居るけどあの御二人は酷い」
「まあ」
私が驚くと夫は声を上げて笑った。
「特に陛下は酷い、三十年以上凡庸な振りをしていたのだからね。皆を騙してきた」
「そんな事を仰って、不敬罪になりますわ」
夫は私を抱き寄せると“君が言わなければ大丈夫だ”と耳元で囁いた。頬が熱い、夫だって相当に人が悪いと思った。陛下やリヒテンラーデ侯の事を言えないだろう。
“非凡だが平凡でありたいと願っている”。……夫にはずっとそのままでいて欲しいと思う。夫が平凡でありたいと願っている限り、私は夫の傍に居る事が出来ると思う。夫が自ら非凡である事を、英雄である事を望めばそれはもう私の知っている夫ではない。そうなった時夫の傍に私の居場所は無い。いつか夫は英雄である事を望むのだろうか? そんな日が来るのだろうか? 夫の傍に居たいと思うのは大それた望みなのだろうか?
「大丈夫だよ、ユスティーナ。私は孤独じゃない」
夫が気遣うように話しかけてきた。私が夫の事を心配していると誤解したようだ。夫が私を見て頷いた。
「本当だよ。私生活でも君や義父上がいる。私は孤独じゃない。その事に感謝している」
そう言うとまた夫は窓の外を見た。先程までの外を見ていた表情とは違う、穏やかな表情をしている。大丈夫、夫は変わらない。何故かそう思えた。
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