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外伝 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
ささやかな願い 〜 ユスティーナ 〜
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あの雪を穢したいと思っていたんだと思う」
夫がまた首を横に振った。目を逸らし続けてきた事をついに見てしまった、そう思ったのかもしれない。夫の口調には力が無かった、自分を責めている。夫はローエングラム伯への罪の意識に囚われている、そう思った。
「一度は彼と共に帝国を変えたいと思ったのにね。場合によっては共に反逆者になることも覚悟していたのに」
「貴方……」
夫は哀しそうな表情で笑みを浮かべていた。本当にそんな事を? そう思わせる笑みだ。でも夫は“本当だよ、私はローエングラム伯同様危険な考えを持っていたんだ”と言った。
「だが或る時から私達の間に亀裂が入った。それは修復不可能なまでに広がり私達は別々の道を歩むことになった」
「……」
「まだ中将の頃だったが彼を排除しようと考えた事も有る」
「……でもそうなりませんでしたわ、本当ですの?」
夫が軽く苦笑を漏らした。
「義父上の病気を知ってしまった。そして義父上にローエングラム伯を援けてくれと言われたからね。私にはそれを断る事は出来なかった」
「貴方……」
養父の病気を夫に知らせたのは私だった。夫以外に頼れる人が居なかった。でも夫にとっては不本意な事態をもたらした事だったのかもしれない。私を恨めしく思った事も有ったのではないだろうか。
「あの頃が一番辛かった。自分の進む道が全く見えなかった。だからかな、あんな事をしたのは。あれは一種の逃避だったのだと思う」
何の事だろう、もしかすると指揮権強奪の一件だろうか。聞きたかったが聞けなかった。それが事実なら私が引き起こした事だ、訪ねるのは無神経に過ぎると思った。
「あのイゼルローン要塞陥落で全てが変わった。私とローエングラム伯の立場は逆転し伯は宇宙艦隊副司令長官として私の部下になった。自由惑星同盟軍に勝つために私がそれを望んだ。そうでなければ伯は軍を追放されるか閑職に回されていただろう。……だが後の事を考えればその方が良かったかもしれない」
最後は哀しそうな、消えそうな口調だった。慙愧、悔恨……、伯を殺さずに済んだ、夫はそう思っている。
「私が彼を追い詰めた。気付かないうちに追い詰めていた。副司令長官として遇しつつもそれ以上は許さなかった。そして私は内政改革を始め新たな帝国を創り始めた。自らが銀河帝国皇帝になる事を望んだ伯にとっては拷問の様な扱いだったのかもしれない」
「……」
「ジークフリード・キルヒアイスは私を憎んでいた。彼が私にブラスターを向けるとは思わなかった。それだけ私はローエングラム伯を弄っていたのだろう。そんなつもりは無かったけど……」
ジークフリード・キルヒアイス? 私の疑問を感じ取ったのだろう、ローエングラム伯の副官で幼馴染だと夫が教えてくれた。
「覇者ラインハルト・フォン・ローエン
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