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外伝 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
ささやかな願い 〜 ユスティーナ 〜
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様な想いを抱いた事を覚えている。穏やかな雰囲気を身に纏っていた夫とはまるで違っていた。夫が鞘に収まった短剣なら彼は抜身の短剣のように見えた。
一度は養父が後継者に選んだ人物だったが敗戦により宇宙艦隊副司令長官に降格した。そして昨年の内乱で反逆罪に問われ死んだ。ローエングラム伯自身は反逆には直接は関わっていなかったらしい。彼の周囲が彼を皇帝にしようと企てたのだという。彼の姉、グリューネワルト伯爵夫人もその陰謀に加担していた。皇帝を暗殺するために毒薬を所持していた……。
その陰謀の所為で夫はもう少しで命を落とすところだった。ローエングラム伯を皇帝にするには夫の存在が邪魔だとローエングラム伯の周囲は判断したようだ。実際陰謀を暴いたのは夫とリヒテンラーデ侯だった。彼らの判断は正しかったのだろう。
「伺っても宜しいですか?」
「何かな」
「以前から気になっていたのです。貴方はローエングラム伯を憎んではいませんの? 恨んではいませんの?」
夫が私を見た。困惑をしている。やはり夫にとっては予想外の質問だったらしい。
二人の関係が微妙だった事は私も聞いている。ローエングラム伯の所為で夫は殺されかかったが最終的には夫がローエングラム伯を死に追いやった。巷で言われる様な権力闘争というよりも生死を賭けた戦いをしていたのだと思う。でもローエングラム伯が死んだ時、夫は酷く落ち込んでいた。養父が慰めていたのを覚えている。
「憎んではいなかったと思う。恨んではいたけれどね」
「……」
「どうして自分に協力してくれないのか、どうして自分の配下で満足してくれないのかと恨んだよ。そして何時か伯を排除しなければならない日が来ると恐れた。そんな日が来ない事を願っていた……」
夫はまた外を見た。
「馬鹿げているな、伯が私の配下で満足するなどそんな事は有り得ないのに」
「……」
首を横に振っている。口調には自嘲するかのような響きが有った。
「彼は覇者なんだ。覇者は一人、そして並び立つ者を許さない。だからこそ覇者なのに……。協力などするわけがないのに……」
覇者、確かにそうだった。そう思わせる覇気が有った。
「……伯を好きでしたの?」
夫が私を見た。哀しそうな目だった。
「そうかもしれない。いやそうだったのだと思う。彼の持つ傲慢さや稚気、純粋さや不器用な優しさ、そして溢れんばかりの覇気、子供っぽさ……、そのどれもが好きだったのだと思う」
「……」
「憧れていたのかもしれない、私には無いものだからね」
また外を見た。
「いや、それだけじゃないな」
夫が私を見た。昏い笑みが有った。初めて夫が見せる笑み……。
「憎んでいたのかもしれない。彼の無神経さ、鈍感さ、一人よがりなところを。……君の言う通りだ、私は何処かで彼を憎んでいた。
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