巻ノ二十三 箱根八里その一
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巻ノ二十三 箱根八里
幸村主従は駿府を発ち駿河を東に進んで東国に向かった。そこで遂に箱根に来た。
箱根のその山々を前にしてだ、清海が唸った。
「いや、噂には聞いていましたが」
「はい、これはです」
「まさに天下の要害」
こう伊佐にも言う。
「そうそう容易に越えられぬぞ」
「左様ですね」
「まあ並の者なら苦労する」
清海と伊佐にだ、笑みを浮かべて言ったのは根津だった。着物の袖の中で腕を組みつつ余裕の表情を見せている。
「並の者ならな」
「うむ、我等ならばな」
「忍術も身に着けていますし」
「何でもない筈じゃな」
こう言うのだった。
「そうであろう」
「無論じゃ、それこそ飛騨の山でも何なく越えられるわ」
「私もです」
兄弟で根津に言うのだった。
「この箱根にしてもな」
「造作もないことです」
「そうじゃな、ここにいる中でじゃ」
根津は二人の言葉を受けてだった、他の面々も見て言った。
「あそこを越えられぬ者はおるか」
「何でもないわ」
「見たところ思ったより大したことはない」
根津にだ、海野と望月が言葉を返した。
「あれ位越えられなぬてはな」
「どうして忍の術を使えると言えるか」
「あれ位何でもない」
「町を歩く様なものじゃ」
「信濃にはああした山も多い」
その信濃で山賊をしていた由利の言葉だ。
「まあすぐに越えられるな」
「さて、行くとしようぞ」
最初に足を踏み出したのは穴山だった。
「あの程度の山、何でもないわ」
「おっと、先に行くのはわしじゃぞ」
猿飛はその穴山と競おうとだ、彼も足を踏み出した。
「箱根一番乗りじゃ」
「戦でもないのに一番乗りがあるのか」
「あるわ、わしが先に行くぞ」
「まあ待て」
はやる二人をだ、筧が呼び止めた。
「ここは皆で行こうぞ」
「皆でか」
「箱根に入るというのか」
「そうじゃ、只の旅じゃ」
戦ではなく、とだ。筧もこう言うのだった。
「それならばじゃ」
「一番乗りも何もなくか」
「普通に進めばよいか」
「そうじゃ、皆で穏やかに行こうぞ」
「十蔵の言う通りじゃ、急いでも何にもならん」
霧隠も二人にこう言う。
「殿と共にゆうるりと行こうぞ」
「そうか、では殿」
「ここは」
「うむ、確かにあれ位なら我等にとっては何でもない」
幸村は二人に応えてだった、微笑んで述べた。
「しかし足場が悪いのは事実、だからな」
「焦らずにですか」
「じっくりと先に進む」
「そうあるべきですか」
「箱根では」
「歩いているだけで怪我をしては話にならん」
例えそこがどれだけ険しい場所でも、というのだ。
「だからじゃ」
「慎重にですか」
「一歩一歩先に進む」
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