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逆さの砂時計
オペラセリアのエピローグ 2
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人にしか通じない話もあるでしょう?」
「……ええ」

 うつむくアリアの頭を撫でるクロスツェルさんの仕草が自然だ。
 申し訳なさそうに見上げたアリアの表情が少しずつ穏やかになっていく。
 これが世間一般に言われる()()()()()か。
 なるほど、いたたまれない。

「では私達も師範達の教会へ移動します。お元気で。いずれまた、どこかでお会いしましょう」
「はい」
「また、どこかで」

 二人に向かって一礼すると、二人も同時に頭を下げてくれた。
 しっかりした挨拶は、出会いも別れも気持ちが良いな。
 零れた笑顔でアリアを見送ってから、マリアさん達に向き直る。

「お待たせしました」
「決まったんですね?」

 何が、とは、聞き返すまでもない。

「はい。よろしくお願いします」
「分かりました。では、行きましょう。リースリンデもしっかり掴まって」
「はい!」

 ティーとリースさんを肩に乗せたマリアさんと手を繋ぎ。
 一人で残るクロスツェルさんに、もう一度頭を下げた。
 景色が変わる瞬間、彼は笑っていた……気がする。



 実は、玉座の間に居た時からずっと、レゾネクトについて考えていた。
 誰に言ってもどうにもならないことだから、胸の内にしまっておくが。

 彼はとっくに、勇者の再誕を諦めかけていたのではないか?

 根拠は、私との戦闘にある。
 逐一言葉にしなくても使える筈なのに、わざと声に出していた単語。

 いかに彼が『鏡』だとしても。
 私が彼の特性を知りたがっていたとしても。
 自身を攻撃する者に対して、手の内を明かす愚は犯さないだろう。
 むしろ『鏡』だからこそ、解明の意図を反射して秘匿しようとする筈。

 だが、彼は自分からきっかけを作った。
 力の正体に気付いてくれとでも言いたげに、何度も言葉を発していた。

 もしかしたら、無意識下では、止めて欲しかったのかも知れない。
 でなければ、殺して欲しかったか。

 異なる時間の流れに観測された事実は、なかったことにできない。
 勇者達を殺してしまった事実は覆らず、喪われた命は二度と戻らない。
 マリアさんは自分には決して笑わないと、心のどこかで理解していた。
 だから、自分を止めるなりなんなりして欲しかった。
 勇者一行と一緒に逝きたかった……とか。

 臆測だ。
 私には、他人が隠した思いまでは読み取れないし。
 彼が言葉にしてたのだって、単に遊んでいただけの可能性もある。

 実際今思い出しても、よく生きてるよ、と自分を褒めたくなるほどだ。
 うっかり本気で殺意を向けてたら、さようなら人類どころか。
 さようなら未来、だったんだな。


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