異端が与える理不尽
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仰向けに倒れ伏し、その男はニッと歯を見せて笑う。砕けた右腕は動かず、最後の交差によっても打ち付けられた重量武器によって完全にイカレてしまった。
幾多もの傷が付いた身体は誰が見ても満身創痍。それでも彼には、湧き上がる歓声と約束の言葉を受け止めて弱々しくも誇らしい声を宙に上げた。
「第四番隊隊長――……敬愛する先達、副長にこの勝利を捧ぐ。
しかし我らの渇望は未だ峠を越えぬ。願え、謳え、想え、望め……末端の一人に至るまで不敗となる為に。
我ら徐晃隊……渇望はいつでも唯一つっ……愛しき御大将の背を追い続けん! いつか肩を並べて戦えるその時まで、そうあれかしっ!」
一呼吸。小さく間を区切った彼が空に向ける想いは決められている。
約束を紡げ。死した皆に届くように。生きている皆に届くように。
「乱世に華をっ!」
『世に平穏をっ!』
吹き荒ぶ声は乱れなき一声。黒麒麟の身体が上げる約束の言葉は、天まで届けと華開く。
元文醜隊の男達は震えた。彼らの在り方に男として憧れた。
狂信は伝搬する。もはや組み込まれた猪々子の部隊は、一人の例外なく黒に憧れてしまった。追い駆ける背中を見つけてしまった。なりたいモノを見つけてしまった。
男として生まれた以上、彼らは意地を持たずに居られない。誇りを持たずには居られない。
此処に世界の既存概念は崩された。
名前さえ語られない、生まれも育ちも才能も何もかもが凡人の兵士が、世界に愛される武将を確かに倒したのだ。
……と彼らは思う。
しかしながら納得できないモノが、一人。
「ふざけるなよ……」
部隊長が倒れるより前に尻もちをついた彼女――焔耶が、苛立ちと憤慨を瞳に燃やして立ち上がり、倒れた男を睨みつけていた。
「たかだか一撃を見舞ったくらいで、私を倒しただと?」
ゆらりと一歩、歩みを進めた。周りの兵士達の視線が鋭くなった。
何をするつもりかなど、引き摺っている武器を見れば誰でも分かる。
彼女の左胸、丁度心臓の位置で服が汚れていた。彼女が受けた攻撃はただそれだけ。たった一撃、練兵用の刃が潰され殺傷能力の無い槍で突きを喰らっただけ。
刃が付いていればどうなっていたか分からないが、それは“もしも”の話である。部隊長が選んだ以上、殺すことの出来ない武器での勝ちは焔耶の降参でしか有り得ない……と、焔耶は考えていた。
「お前の負けだよ、魏延」
歩みを進める焔耶の元にゆるりと声が滑り込む。
椅子にもたれていた彼が身体を起こし、焔耶を下からじとりと睨んでいた。
「何を言う。倒れているのはあいつで、私はこうして動いている。敗者と勝者などこの状況を見れば明らかだ」
「そうだな、お前の基準で言うならそうなる」
「私の
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