異端が与える理不尽
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生きる渇望に変えさせる。
ただし彼は、死を厭いながらも自身の死には拘らない。徐晃隊達も同じであるが、始まりの頂点である彼だけは……他者の想いを糧として自身の崩壊に拘らない……わけではない。
拘らない理由は……“死という理不尽を乗り越えてしまった為”であった。
与えられた命によって死を乗り越え、与えられた使命によって死ぬことを許されない。
言葉遊びではなく、本当の意味で初めから死んでいる人間である彼には、自分の命に拘る理由が無い。
空っぽの器に想いを詰め込んだ、とは誰の言であったか。やはり彼らだけは、真実が分からずとも彼のことを理解していたのだろう。
今、彼の胸に来る想いはこれまでになく高まっていた。
理不尽に抗う証明を得た彼らと同様に、彼自身、この世界を変えられるのだと思えた。
魏延が兵士に敗北するなど歴史的に見れば有り得ない。そしてこの世界の異質な武力を持つ将達が一介の兵士に負けることも有り得ないはずなのだ。
だというのに、である。
例え自分がイトを手繰り寄せて仕掛けた助けがあろうと、一人の男が将を倒したという事実はそれほどまでに彼の心を燃やさせた。
ならば自分はどうする。
負けを認めない目の前の女に、どれほど彼らが必死で強くなってきたかを教えなければならない。
黒麒麟の友である白蓮と同じ言の葉を吐こうと、愛する土地を守りたいと願う純粋な人間であろうと……彼が与えられた力を以って叩き潰すだけ。
あくまで彼の武力と言うモノは借り物であり、この世界の人間全てを騙しているペテン。
彼本来の力は折れない心だけ。彼らと同じく理不尽に抗いたいと願う心だけだ。男の意地とプライドを胸に燃やして口先三寸で人を扇動する事こそが彼の持ち寄る力であろう。
だから、彼は自身の武力を嫌悪している。与えられた力などで勝ってもなんら感慨は浮かばず、達成感も持ちえない。
彼も黒麒麟も、彼らと共に戦うことが心の安寧であり、救いだった。死別によって痛みを伴うその力こそが、秋斗をこの乱世で戦わせるに足りたモノだった。きっとそれは、武力を持っておらずとも変わらないモノ。
問おう。
人を外れた存在――例えば神と呼べるモノ――に与えられた力で勝利を収めて、徐晃隊と同じ想いを宿すモノが満足するだろうか。
重ねて問おう。
イカサマとも呼べるハンデを貰ってまで得た勝利に、一人の男として満足感を得られるだろうか。
否、どちらも否。
徐公明という与えられた役目である前に秋斗という一人の男である彼は、誰彼に貰ったハンデで勝利を収めても満足出来ない。
常に心が渇いているのはその為だった。
徐晃隊でさえイカレていると評する彼の平穏への渇望は、その最大の矛盾から来ている。
だか
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