巻ノ二十二 徳川家康という男その十三
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「天下はこれからどうなるかわからなくなりましたので」
「近畿がな」
「そうです、おそらく羽柴殿が天下人に一番近くなりますが」
「その羽柴殿とどうなるか」
「そうです、そのことがありますので」
だからだというのだ。
「羽柴殿と干戈を交えることになる恐れもあります」
「そのことじゃが」
ここで家康は石川、そして他の家臣達に袖の中で腕を組み難しい顔でこのことを話した。
「今羽柴殿は茶筅殿の家臣となっておるが」
「その実は、ですな」
「そうじゃ、茶筅殿の上に立たれようとしている」
だから天下人なのだ、主家であった織田家を差し置いて自分が天下人になる。秀吉が天下人になるということはそういうことなのだ。
「だからな」
「茶筅殿がですか」
「それに反発されていますか」
「羽柴殿に」
「おそらくそれは羽柴殿と柴田殿のことに決着がつけば明らかになる」
その時にというのだ。
「三七殿の次はじゃ」
「柴田殿の主君であられるですな」
「あの方の次は」
「まず、じゃ」
家康はさらにだった、顔を強張らせて言った。
「三七殿はな」
「柴田殿が倒れられると」
「その後で、ですな」
「こうなる」
腹を切る仕草をしてだ、家康は言った。
「間違いなくな」
「主家の方であろうとも」
「前右府様のご子息であろうともですな」
「それでも」
「天下人になるからにはな」
その秀吉がだ、
「それも当然のことじゃ」
「ですか、下克上の世とはいえ」
「羽柴殿はそこまでされてですか」
「天下人になられますか」
「それならば茶筅殿を押しのけることも当然じゃ」
今の自身の名目上の主である信雄もというのだ。
「だからその茶筅殿がな」
「当家に助けを求める」
「そうしてきますか」
「そうなる、その前に北条家とは話をつけ」
そしてというのだ。
「出来るだけ甲斐、信濃をな」
「手に入れていく」
「そうしていきますか」
「今の羽柴家とことを構えると甲斐、信濃どころではない」
最早というのだ。
「全力で向かわねばならん」
「ですな、当家の力の全てを使い」
「そのうえで」
「何としても防ぎましょう」
「我等を滅ぼすことを」
「実際天下は羽柴殿のものとなる」
家康はこのことは間違いないと言い切った。
「それはもう仕方がない」
「ですか、最早」
「羽柴殿の天下は揺るぎないですか」
「天下の流れは羽柴殿に向いていますか」
「そうなっていますか」
「そうじゃ、だからな」
それで、というのだ。
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