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逆さの砂時計
孤独を歌う者 5
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の中で、砕く。

 これで、俺は一人に戻った。
 もう、俺が生まれてきた理由も、生き続ける意味も、探す必要はない。
 魔王は勇者達と共に死んだ。
 この空間も記憶も俺も、全部消える。

 アリアが受け継いだ俺の力を使って、ブローチを『扉』のマリアに返し。
 本体に戻って、マリアの器を抱きしめたまま、目蓋を閉じた。

「これで良い」


「あまり、言いたくはなかったん、ですが……。バカですか、貴方は」


「…………?」

 崩壊を始めた空間が、開いた視界に色彩を変える。

 青い空。繁る森の緑。
 散乱する石の塊。ひび割れた石床に描かれている翼の紋様。
 空間から追い出した筈の連中が、俺とマリアの器にしがみついた女神を、(まる)く取り囲む。

 ここは……かつて天神(てんじん)の一族を置いていた神殿か。

「本当、人の話を、全然……聴かな……ぐっ」
「クロスツェルさん!」

 フィレスに肩を支えられながら、口元を押さえて膝を突くクロスツェル。
 酷い顔色だ。
 堪えているのは胃の内容物か、それとも血液か。
 尋常ではない量の脂汗が、額から顎へと伝い落ちている。

「お前が時間を止めて、アリアが俺達を連れてきたのか。余計なことを」

 クロスツェルから女神へと目を移せば。
 純白の翼を背負って小刻みに肩を揺らす女神は、十代のあどけなさを残す少女の姿から、成熟した女性らしい姿へと変貌している。
 体の主導権をアリアに返したのか、アリアが咄嗟に動いたのか。
 全身、態度から伝わる雰囲気も、ロザリアのものとはまるで違う。

「……余計なこと? 冗談を言わないでください。貴方達、意外と物忘れが激しいですね。仕方がない。理解するまで、何度でも何回でも丁寧に教えて差し上げましょう」

 呼吸を整え、コートの袖で汗を拭いながら立ち上がったクロスツェルが、フィレスに「大丈夫です」と言って、俺の傍まで一人で歩み寄ってきた。
 クロスツェルの右手がすぅっと上がり。
 派手な破裂音の後、少し遅れて、俺の左頬にじわりと熱が滲む。

「痛いですか?」
「……いや」

 物理的な痛みは、あまりない。
 だが、仕草で次の挙動は予想できたのに、何故か驚いている自分が居る。

「そうですか。まあ、良いでしょう。では本題です。少々苛立っているので一息に並べますが、決して聴き逃さないように、お願いしますね」

 深く息を吸って、吐いて、また吸って……
 ぴたりと止める。
 金色の目が俺をまっすぐに見て、にこっと笑った。

「確かに私はロザリアの隣に居られるならそれ以外はどうでもいいですし、過去の因縁にも興味はないと言いました。ですがそれは、過去のしがらみを貴方達の死で精算して
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